ウイスキー業界では、別のスピリッツやワインが入っていた樽に詰め替えて短い間追加で熟成させることがあります。
これを「カスクフィニッシュ」と言い、今日ではリーズナブルな銘柄まで行われるようになりました。
短い期間熟成させるだけでもウイスキーは複雑な香味となり、より広がりのある味わいのウイスキーを楽しむことができます。
今回は、「カスクフィニッシュ」について詳しく解説しつつ、おすすめの銘柄を紹介させていただきます。
カスクフィニッシュとは?
スコッチやアイリッシュ、ジャパニーズなどのウイスキーは、別のスピリッツやワインが入っていた樽で熟成させることが多いです。
中でも下記の樽がよく使われます。
- バーボンウイスキーの入っていた樽(バーボン樽)
- シェリーワインの入っていた樽(シェリー樽)
このような樽で長い期間熟成させた後、別の樽に詰め替えて短期間だけ熟成させることがあります。
これを「カスクフィニッシュ」です。
ウイスキーの風味は、70%が樽に由来していると言われています。
カスクフィニッシュで使用する樽によって、全く異なるフレーバーを得られることがあり、リーズナブルな銘柄から高級ボトルまで幅広く採用されている製法となりました。
カスクフィニッシュでは、通常ウイスキーの熟成には使用されない樽が使われることがあります。
- ラム樽
- コニャック樽
- 赤・白ワイン樽
- 焼酎樽
- 日本酒樽
- テキーラ樽
- ビール樽
など
ウイスキーの香味として珍しい香りや味わいに出会えることがカスクフィニッシュの魅力の一つと言えるでしょう。
カスクフィニッシュの特徴
カスクフィニッシュの特徴は、樽の個性が付与されより複雑になることです。
例えば、10年間バーボン樽で熟成させたあとシェリー樽でフィニッシュした場合、バーボン樽由来のバニラ香・バランスの良さは保ちつつ、シェリー樽由来のコクや渋みがもたらされることがあります。
カスクフィニッシュの期間は、数か月から数十か月とウイスキーの熟成の中では短い期間。
そのため使われる樽は、個性の出やすい樽が使われることが多いです。
- 小さめの樽
- ウイスキーに使われることの少ない樽
- 1stフィル(別のお酒を払い出してすぐの樽)
熟成樽のサイズが小さい方が樽の影響を受けやすい傾向があります。
カスクフィニッシュにはオクタブ(シェリーバットの1/8)やクォーター(バレルの1/4)といった容量45~60ℓほどの樽が使用されることが多いです。
- シェリー樽ならバット(容量500ℓほど)やホグスヘッド(容量250ℓほど)
- バーボン樽ならバレル(容量200ℓほど)
また、ファーストフィル(別のお酒が払い出してから最初に使われる樽のこと)が個性が出やすい樽が使用されることが多いです。
カスクフィニッシュ用に樽を用意する業者も多く、コラボなどで実現するボトルもあります。
グレンフィディックIPAカスクフィニッシュが代表例ですね。
スペイサイドブリュワリーとのコラボです。
もともとカスクフィニッシュはグレンモーレンジィ蒸留所が初めて市場に投入しました。
そのためグレンモーレンジィは「樽のパイオニア」とも呼ばれています。
カスクフィニッシュの魅力
カスクフィニッシュの魅力は、多彩な樽で熟成されたウイスキーの味わいが楽しめることだと思います。
シェリー樽フィニッシュが最もメジャーで、シェリー酒の中でもさまざまな樽がカスクフィニッシュに使用されます。
- フィノ
- アモンティリチャード
- オロロソ
- パロ・コルタド
- ペドロヒメネス(PX)
- モスカテル
など
例えば、極甘のペドロヒメネスやモスカテルカスクフィニッシュは蜜やドライフルーツのような甘みが特徴です。
オロロソのように酸化熟成をさせた辛口シェリーフィニッシュならレーズンのようなコクのある味わいがお楽しみいただけます。
また最近は、
- IPA(ホップを大量に使用したエールビール)
- カルヴァドス(リンゴのブランデー)
- コニャック
- ソーテルヌ
- ラム
- テキーラ・メスカル
など
さまざまな樽がウイスキーのカスクフィニッシュに使用されています。
カスクフィニッシュによって、ウイスキーはより多彩な個性を持つ蒸留酒となったと言えるでしょう。
さらに、最近リーズナブルな価格帯のウイスキーでもカスクフィニッシュの製品がリリースされるようになりました。
2000円台でカスクフィニッシュをしている銘柄は数多くあります。
多彩な個性のウイスキーが安い価格帯でも楽しめることは大きな魅力と言えるでしょう。
ところが、カスクフィニッシュはオリジナルの原酒との相性が大事で実験的なボトルとなっているものも多いです。
なのでカスクフィニッシュをしていないスタンダードなボトルと共に飲み比べているとよいお愉しみいただけると思います。
おすすめのシリーズ
カスクフィニッシュはそれぞれの樽による味わいの違いがわかると興味深く感じられるでしょう。
シリーズで味わってみるとその違いがわかりやすいと思うので、まずはおすすめのシリーズから紹介させていただきます。
グレンモーレンジィ
グレンモーレンジィは、蒸留所が木材から厳選したバーボン樽(デザイナーズカスク)を使用。
スタンダードな「グレンモーレンジィ オリジナル」はこの原酒が使われていますが、その後カスクフィニッシュさせた定番ラインナップがあります。
- ラサンタ(シェリー樽フィニッシュ)
- キンタ・ルバン(ルビーポートワイン樽フィニッシュ)
- ネクタドール(ソーテルヌワイン樽フィニッシュ)
もともとグレンモーレンジィの実験的なボトルから生まれた商品で、グレンモーレンジィが「カスクフィニッシュ」を始めたとも言われています。
デュワーズ カスクシリーズ
デュワーズ カスクシリーズは、各国のユニークな樽でデュワーズをフィニッシュさせたシリーズです。
現在(2024年7月時点)で5種類ほどリリースされいます。
- カリビアンスムース(ラムカスクフィニッシュ)
- イリーガルスムース(メスカルカスクフィニッシュ)
- ポルトガルスムース(ルビーポートワインカスクフィニッシュ)
- フレンチスムース(カルヴァドスカスクフィニッシュ)
- ジャパニーズスムース(ミズナラカスクフィニッシュ)
限定リリースのため、すでにECサイトではプレ値となってしまっているものがありますが、2000円台でユニークな樽のデュワーズが楽しめることで人気を博しております。
ウエストコーク
ウエストコーク蒸留所で作られているアイリッシュウイスキー。
シングルモルトからブレンデッド、ポットスチルウイスキーまで製造している蒸留所で、カスクフィニッシュをさせた幅広いラインアップが特徴となっています。
柔らかな飲み口で、甘い香りがお楽しみいただけるスタンダードなアイリッシュウイスキースタイル。
一般的な「バーボンカスク」のほかに、「IPAカスク」「スタウトカスク」「ピートチャードカスク(ピートを効かせたウイスキーの古樽を再び焦がした樽)」「ラムカスク」など様々な樽が使われています。
クセがなくライトな味わいに個性的な樽のニュアンスが合うのかもしれません。
2000~3000円台と比較的リーズナブルに樽の違いお楽しみいただけるシリーズとなっています。
コメント
コメント一覧 (2件)
[…] また、同じ地域、同じ蒸留所でもカスクフィニッシュのように樽が変われば、また違った香りや味わいを楽しませてくれるでしょう。 […]
[…] カスクフィニッシュ […]