ピートレベルの基準として語られる「フェノール値」。
スモーキーなシングルモルトウイスキーには、まれにフェノール値○○ppmなどの表記があります。
数値が高いほどクセの強いスモーキーな銘柄が多いため、「数値=スモーキーさの強度」と思われがちですが、それには誤りがあります。
では、フェノール値とはどういうものなのでしょうか。
今回はウイスキープロフェッショナルの資格を持つシェフが詳しく解説していこうと思います。
『フェノール値』とは?
ピートの効いたスモーキーなウイスキーを語る上で欠かせない数値が「フェノール値」。
「フェノール値」とは、麦芽をピートによる燻煙乾燥後にフェノール類の量を計測した数値です。
ピートの燻製度合いの基準にはなりますが、直接的にクセの強さを測るものではありません。
よりフェノール値について詳しく解説する前に、麦芽とピートについて少しおさらいしていこうと思います。
ピートと麦芽のおさらい
ピートとは、数千年以上もの時間をかけて、植物などが堆積し炭化した燃える泥の事です。
スコットランドやアイルランドなどの高緯度の地域では一般燃料として使われており、古来からウイスキー造りに欠かせない材料でした。
発芽させた麦芽をピートの燻煙で乾燥させるのですが、この時独特なスモーキーフレーバーが麦芽につきます。
今では無煙炭やオイル、熱風などを利用して、薫香を抑えた麦芽が作られるようになりましたが、昔のウイスキーにはすべてピートで乾燥させていました。
一般的にはピートの香りが強すぎるウイスキーよりライトなウイスキーを好む方が多数派。
スコットランドでもピートを使用しない銘柄が増えていますが、今でも独特なフレーバーに魅了された人たちに向けたクセの強い銘柄も作られています。
むしろクセの強さを誇っている銘柄もあるよね。
ラフロイグとかアードベッグとか……。
フェノール値はあくまで基準
ウイスキーのスモーキーフレーバーは、麦芽の乾燥時に香りづけされます。
スモーキーフレーバーを感じさせる成分は「フェノール化合物」。
乾燥させた後の麦芽についたフェノール化合物の量を計測した数値が「フェノール値」です。
- 10ppm以下でライトピート
- 25ppm程度でミディアム
- 40~50ppmでヘビーピート
数値が大きいほど薫香は強くなりますが、出来上がったウイスキーまで一概にスモーキーフレーバーが強いわけではありません。
発酵や蒸留、熟成などその後の工程によって大きく変わります。
例えば蒸留時に行われる「ミドルカット」は、カット位置によってスモーキーさを調節することが可能です。
フェノール値は、麦芽についたスモーキーフレーバーを感じさせる成分の量であるため、あくまでも基準でしかありません。
特にラフロイグやアードベッグから感じる正露丸、ヨードのようなクセのある香りは、フェノール値よりもどこのピートを使用したかに大きく影響されます。
ノンピートでもフェノール値は、0ppmではない?
ピート燻製での乾燥を行っていないノンピート麦芽では、ピートによるフェノール化合物がつくはずがないと思うでしょう。
そのため、「ノンピート」の麦芽=0ppmと思うかもしれませんが、実はノンピートでもわずかにフェノール値の数値が出ることがあります。
フェノール化合物は麦芽にも含まれているため、ノンピートだから必ず0ppmとなるわけではないのです。
ノンピートで2~3ppmほど数値が出たとしても、スモーキーフレーバーを感じることはほぼないでしょう。
このことからもあくまでもフェノール値が基準でしかないことがわかると思います。
フェノール値順 ウイスキー一覧
アイラモルト
ブルックラディ | 3~5ppm程度(ノンピート) |
---|---|
キルホーマン | 自社製麦芽 10~20ppm、 ポートエレン製38~50ppm |
ボウモア | 約25ppm |
ブナハーブン | 基本ノンピート麦芽と35~45ppmの麦芽 |
カリラ | 基本は34~38ppm |
ラガブーリン | 34~38ppm |
30~40ppm | |
ラフロイグ | 自社製は45~50ppm それ以外は34~38ppm |
アードベッグ | 約55ppm |
オクトモア | 80~300ppm以上 |
アイラモルト以外
白州 | 5ppm |
スプリングバンク | 8ppm |
ウルフバーン | 10ppmの麦芽も使用 |
カネマラ | 14ppm |
ベンロマック | 10~15ppm |
グレングラッサ | 年1回30ppm |
ノックデュー | 40ppm |
ハイランドパーク | 自家製麦で40~42ppm |
バレッヒェン | 50ppm |
ロングロウ | 約50ppm |
ウエストランド | 55ppmの仕込みあり |
グレンアラヒー | 60~80ppmの仕込みあり |
最後に……
最後までお読みいただきありがとうございます。
今回のお話いかがだったでしょうか?
よくウイスキーを少し勉強している人はフェノール値が何ppmか気にしがちです。
僕もフェノール値をすごく調べていた時期はありますが、正直言うとフェノール値でウイスキーの良さは測れません。
そもそもウイスキーの良さを数値化することが野暮な話かもしれません。
今回の記事では、「なぜフェノール値があくまでも基準なのか。」をメインに解説していきました。
実際に表にまとめてみると、数値の割に「アレ?このウイスキーそんなにスモーキーじゃなくない?」と思う銘柄もあったと思います。
そう、あくまでもフェノール値は基準でしかないのです。
麦芽乾燥時の数値であって、完成品の数値ではありません。
なので、参考にウイスキーを選ぶのはいいと思いますが、フェノール値ばかり気にしてはウイスキーの本質は楽しめないでしょう。
ぜひあくまでも「大雑把なスモーキーさのものさし」としてフェノール値を参考に楽しんでいただけたらと思います。
コメント
コメント一覧 (1件)
[…] ルーアックモアはグレンタレット蒸留所のヘビーピーデッド麦芽(フェノール値80ppm)を使用したシングルモルトの事です。 […]