キーモルト。
この用語をブレンデッドウイスキーの解説や商品説明などで見たことはないでしょうか?
キーモルトとは、ウイスキー銘柄の要・中核となるモルト原酒の事を言います。
有名なウイスキー銘柄もキーモルトを知ることで、鍵が開くように魅力が広がることでしょう。
今回はキーモルトについて解説しつつ、主要銘柄のキーモルトを紹介していこうと思います。
『キーモルト』
ウイスキーは、ほとんどの銘柄が何十種類も原酒をブレンドして作られています。
ブレンドに使われる原酒の中で味わいを決める要素が「モルト原酒」。
その中でも中核を担う原酒が「キーモルト」です。
核の部分であるキーモルトを知ることで、普段何気なく飲んでいる銘柄でもより鮮明に味わえるようになるかもしれません。
キーモルトからウイスキーの深い魅力を感じてみてください。
キーモルトは最も使用されている原酒?
キーモルトは味わいに中核になる原酒という意味ですが、最も使われている原酒ではありません。
例えば、「ブラックニッカ リッチブレンド」
発売当初は、1000円台のブレンデッドウイスキーながらシェリー樽原酒をキーモルトに使用した珍しいボトルでした。
シェリー樽原酒は深みと芳醇さを与える一方、少しの違いで味わいのバランスを崩してしまいます。
結果、「ブラックニッカ リッチブレンド」に入れるキーモルトのシェリー樽熟成の原酒は、100mlにたった1滴の違いで調整されたそうです。
(参照:『ウイスキーと風の味』 佐藤 茂生著)
モルト原酒が与える魔力がわかる制作秘話だと思います。
少しの量でも味わいを変えてしまうキーモルトもあれば、モルト原酒の中でもベースとして香りや味わいを構成しているキーモルトもあります。
『トップドレッシング』
キーモルトと似た用語で、『トップドレッシング』と呼ばれるものがあります。
これは、深みを与える最上級のモルトウイスキーのことを指します。
シェリー樽熟成の濃厚なモルト原酒やスモーキーなアイラモルトなどがトップドレッシングといわれることがあります。
トップドレッシングは、シングルモルトの解説で見かけることの多い用語です。
ブランドの中核であるキーモルトと異なり、深みを与える独特な個性を持った原酒という意味があると思います。
近い用語ですが、上記のトップドレッシングと言われているシングルモルトを飲み比べてみたり、自分でブレンデッドウイスキーを作ってみたりするとよくわかるかもしれません。
シングルモルトでもキーモルト
『キーモルト』はブレンダー用語ですが、シングルモルトウイスキーでも使われます。
シングルモルトは単一の蒸留所で作られた原酒のみを使用したウイスキーという意味。
ひとつの蒸留所内であればブレンドできるため、キーモルトとなるモルト原酒があるのです。
例えば、有名ジャパニーズウイスキー「山崎」のキーモルトは山崎蒸留所で造られたワイン樽熟成のモルト原酒。
赤ワインの樽で熟成させた芳醇でチェリーのような深みのある味わいが山崎の核を担ってします。
多くのシングルモルトウイスキーは、キーモルトを公表していません。
ブレンデッドウイスキーに比べてシングルモルトの「キーモルト」はわかりにくいです。
そのため多くのシングルモルトでは、「○○樽原酒をキーモルトに使用」と謳うより「○○樽を使用」と謳うことが多いでしょう。
有名銘柄のキーモルト
ジョニーウォーカー
ジョニーウォーカーのキーモルトは銘柄ごとに異なりますが、「カーデュ」、「タリスカー」+「カリラ」又は「ラガブーリン」になることが多いです。
スペイサイドモルトの「カーデュ」にスパイス感のあるタリスカーとスモーキーなアイラモルトで深みを与え、ブランドごとの個性を他のモルト原酒で出しているような印象でしょうか。
11種類ほどのキーモルトを含めて、40~50種類ほどのモルト原酒から構成されています。
主要なキーモルトである「カーデュ」は、はちみつのような甘みにシリアルと華やかさが特長。
ジョニーウォーカーは、その華やかさに余韻として香るスモーキー&スパイシーなフレーバーが秀逸です。
1100万樽と言われる膨大なストックを抱えるジョニーウォーカーだからこそ、なせる技なのかもしれませんね。
バランタイン
現在のバランタインは、「グレンバーギ」、「ミルトンダフ」、「グレントファース」をキーモルトに使用しています。
この3つの蒸留所はオフィシャルボトルが極端に少なく、ほとんどがバランタインの原酒ように使用されているのでしょう。
現在は、バランタインブランドからシングルモルトシリーズが発売されています。
また、バランタインのキーモルトと言えば「バランタイン17年」を作り上げた「魔法の7柱」。
- グレンバーギ
- ミルトンダフ
- アードベッグ
- プルトニー
- スキャパ
- バルブレア
- グレンカダム
この7種類のモルト原酒がなかったら、「バランタイン17年」は完成しなかったと言われてます。
現在のバランタイン17年には、必ずしもこのモルト原酒が使われているわけではないようですが、魔法の7柱と共にバランタインのロマンを感じるのも悪くないでしょう。
シーバスリーガル
「アート・オブ・ブレンデッド」と言われる卓越したブレンド技術を有するシーバスリーガル。
ブランドを通してキーモルトには、「ストラスアイラ」を使用していることが多いです。
ストラスアイラは、製造元のペルノリカール社がプレミアムブレンデッドスコッチによく使うモルト原酒で、同社の「ロイヤルサルート21年」にもキーモルトとして使用されています。
シングルモルトとしても人気の高い銘柄でしたが、原酒不足のためシングルモルトは終売してしまいました。
他にも、シーバスリーガルは「グレンリベット」、「ロングモーン」、「マッカラン」、「ベンリアック」などがキーモルトと言われております。
また、「アルターベン」や「ブレンヴァル」などシーバスリーガルの原酒確保のために作られたモルト蒸留所もあり、その2つの蒸留所で造られた原酒は、ほぼブレンデッド用に使用されています。
デュワーズ
デュワーズのキーモルトは、「アバフェルディ」が有名です。
アバフェルディは、デュワーズの創業者”ジョン・デュワー”の出身地にデュワーズ社が建てた蒸留所で、同ブランドのフラグシップ蒸留所にもなっています。
芳醇な香りと赤リンゴやはちみつのような華やかさが特長。
特にデュワーズ12年とアバフェルディ12年を飲み比べてみると、キーモルトであることがわかると思います。
他にもバカルディ社が所有しているモルト蒸留所の原酒をキーモルトに使用。
- ロイヤルブラックラ
- マクダフ
- クライゲラヒ
- オルトモア
銘柄によって比率は異なりますが、アバフェルディを含めた5つのキーモルトからデュワーズは構成されています。
ティーチャーズ
スモーキーさが特長のコスパのいいブレンデッドスコッチ「ティーチャーズ」。
1000円以下ながら、スモーキーな余韻が楽しめる同ブランドは、「アードモア」がキーモルトに使用されています。
アードモアは、ライトなテイストとスモーキーなフレーバーが特長。
アイラのようにクセのあるスモーキーさではなく、馴染みあるスモーキーな香りがお楽しみいただけます。
過去にリリースされていたティーチャーズには「グレンドロナック」も使用されていました。
昔のティーチャーズを飲んでみるとシェリー樽のニュアンスから「グレンドロナック」の存在感を感じます。
現在のボトルはライトなテイストとなっており、グレンドロナックはほぼ使用されていないでしょう。
昔のティーチャーズはややマニア向けのブレンドでしたが、今は万人受けしやすい味わいとなっています。
オールドパー
オールドパーのキーモルトは「クラガンモア」と「グレンデュラン」です。
「クラガンモア」はシングルモルトでもリリースされており、12年がオフィシャルフラグシップボトル。
蒸留所のオーナーであるディアジオ社の”クラシックモルトシリーズ”のスペイサイド代表となっています。
「グレンデュラン」はシングルトンシリーズの中からシングルモルトがリリースされており、日本ではあまり手に入らないボトルです。
ともにフルーティで華やかなタイプのモルト原酒ですが、オールドパーにはもっとスパイスやスモーキーなフレーバーも感じるため他にも多彩なモルト原酒が使われているだろうと思います。
グランツ
グランツは、同じような三角形のボトルから想像できるように「グレンフィディック」がキーモルトに使用されています。
他には、「バルヴェニー」と「キニンヴィ」がキーモルトとして使用されており、キーモルトの構成はモンキーショルダーと同じです。
スモーキーな味わいに仕上げた「グランツ スモーキー」もキニンヴィで作られているスモーキータイプのモルト(アーストン ランドカスク)と同じクセの少ないスモーキーさ。
薫香の個性を残しつつ、万人受けしやすい味わいへと仕上げています。
フェイマスグラウス
フェイマスグラウスのキーモルトは、「マッカラン」「ハイランドパーク」「グレンタレット」「タムデュー」「グレンロセス」の5つ。
それ以外に40種類以上のモルト原酒とグレーン原酒がブレンドされています。
スタンダードスコッチの中では、シェリー樽の印象が感じやすい一本で、マッカランの存在感も感じるかもしれません。
むしろ、マッカランよりマイルドな個性で飲みやすくなっているので、フェイマスグラウスの方が好みという方もいます。
「ロールスロイス」以外にも「究極のオールラウンダー(ハイランドパーク)」や「最古の蒸留所(グレンタレット)」など原酒のラインアップはかなり豪華。
キーモルトから見れば、英国で一番売れているブレンデッドスコッチなのも頷けるかもしれませんね。
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