「ミドルカット」
あまり知られていないウイスキー用語ですが、蒸留時にウイスキーの香りや味わいを選択する大事な作業のことです。
軽くフルーティな酒質とするのか、それともリッチでフルボディの酒質とするのか、最終的にミドルカットによって決定されます。
今回は、ミドルカットについてわかりやすく解説していこうと思います。
ウイスキーにおける蒸留とは?
モルトウイスキーの製造工程は……
- 製麦……大麦麦芽(モルト)を作る
- 糖化……麦汁を作る
- 発酵……アルコール発酵させる
- 蒸留……アルコール分を分離、度数を上げる
- 熟成……樽で寝かせて香味を付与する
に分かれます。
モルトウイスキーは、「ポットスチル」銅製のスチル(蒸留器)で単式蒸留されるのが一般的です。
スコットランドでは通常2回の蒸留が行われます。
1回目が「初留」、2回目が「再留」と呼ばれ、初留でアルコール度数7%前後から22%程度まで、再留で70~65%程度まで上げていきます。
アルコール度数以外にも役割があります。
【初留の役割】
- 香味の生成
- 固形分や高沸点成分の除去
- オフフレーバーの除去
【再留の役割】
- ミドルカットによる香味の選択
- オフフレーバーの除去
ミドルカットは再留時に行われる作業で、蒸留工程までに作られてきた香味を選択するウイスキー造りの大事なポイントなのです。
どうやって選択するの?
蒸留時に出てくる留液は、始めと後では香りや味わい、酒質が全然違います。
ウイスキー造りでは、3段階に分けるのが一般的です。
- 始めに出てくる
「前留、フォアショッツ、ヘッド」 - 中間に出てくる
「中留、ハート、ミドル」 - 後の方に出てくる
「後留、ファインツ、テール」
ヘッドはアルコール度数が高く軽い酒質で、反対にテールはアルコール度数が低く重たい酒質となります。
香りもヘッドは華やかでフルーティな香りが強く、テールはオイリーでリッチな香りが強くなりやすいです。
最終的に蒸留責任者(スチルマン)は、「フルーティさとリッチさ」のバランスやアルコール度数、酒質を判断して、ミドルを設定。
ヘッドとテールをカットして、ミドルのみを樽に詰めて「ウイスキー」にしていくのです。
ミドルだけ残してあとはカットするため「ミドルカット」って言うみたいですね!
平均的なミドルカットの位置は、アルコール度数65~75%程度です。
蒸留責任者がカット位置が前寄りにしていたら華やかでフルーティな香りを、後寄りにしていたらオイリーでリッチな香りを重視していることがわかります。
またピートのスモーキーな香りは、後寄りの留液に出てきやすい傾向があります。
そのため、アイラモルトなどスモーキーフレーバーを重視するモルトウイスキーは後寄りにカットすることが多いです。
例:
・ラガブーリン⇨ミドルカットは60~70%
・カリラ⇨ミドルカットは65~75%
(参考資料:ウイスキーガロア)
カットされたヘッドとテールは、次の再留に混ぜて再び蒸留されます。
ヘッドやテールにどうしても「必要な香味成分」が残ってしまいますが、何度も繰り返すことでミドルの香味が安定するそうです。
まるで継ぎ足し継ぎ足し、代々受け継がれた秘伝のたれのようですね!(笑)
「ニューポット」の特徴
再留によって得られたミドルは、ニューポット(熟成前のウイスキー)として樽詰めされて熟成、ウイスキーとなります。
ニューポットは、大体発酵もろみの10%ぐらいです。
前寄りなのか後寄りなのか……ミドルカットの位置で蒸留所が作りたいウイスキーの方向性がわかります。
例えば、
- 山崎のニューポットは、重厚感があり複雑。
- 三郎丸蒸留所の「ゼモン(鋳造スチル)」のニューポットは、華やかですっきり。
- 静岡蒸留所の「W(薪直火スチル)」のニューポットは華やかですがトースティで少しリッチ。
など
ウイスキーのイベントや蒸留所見学に行けばニューポットを試飲できるので、気になる方は参加してみてください。
まとめ
今回の記事で、蒸留工程で大事なポイントとなる「ミドルカット」とは、香味を選択する作業だと解説しました。
再留で得られる留液は、はじめはアルコール度数が高くフルーティで華やか特徴ですが、だんだんと度数が低く重たくオイリーな香味へとなっていきます。
ミドルカットとはその中間の程よい部分をカットする作業で、前寄りにカットするか後寄りにカットするかによってウイスキーの酒質が決まります。
樽熟成される前、香味が決まる最後の工程とも言えるわけです。
ウイスキー雑誌や専門書などでもしミドルカットの位置が書かれていたら、今回の記事を思い出して注意深く見てみると蒸留所が目指したい味わいがわかるかもしれません。
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