世界で在庫が積み上がる今、日本ウイスキーはどこへ向かうのか

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世界の酒類大手が、在庫の山を前に値下げや減産を進めている、というニュースが出てきました。対象となっているのは、ディアジオ、ペルノ・リカール、カンパリ、ブラウン・フォーマン、レミー・コアントローといった世界最大級の酒類企業です。

各社の財務資料をもとにすると、これら5社が抱える熟成酒在庫の合計は約220億ドル規模。過去10年で最も高い水準とされています。たとえばレミー・コアントローは約18億ユーロ分の熟成在庫を保有し、これは年間売上高のおよそ2倍に近い数字です。ディアジオも、売上高に対する熟成在庫比率が数年で30%台から40%台へと上昇しています。

前回の記事では、日本ウイスキー市場の成長予測を眺めました。今回は、こうした具体的な社名と数字が示す世界的な調整の動きを横に置きながら、日本市場の先行きについて少し視点を引いて考えてみます。

目次

「売れなくなった」のではなく、「作りすぎた時間」が残っている

今回のニュースで印象的なのは、需要減少そのものよりも、各社が抱える“時間の重さ”です。

パンデミック期、飲酒需要は一気に跳ねました。その勢いに合わせて蒸留量を増やした結果、今は止められない熟成酒が倉庫に積み上がっている。価格を下げても、蒸留を止めても、すぐには軽くならない在庫です。

熟成酒は、作った瞬間に完成しない分、読み違えると修正が難しい。その構造が、今回の調整局面をより厳しく見せています。


前回の記事を返す:日本は「伸びている」のか

日本ウイスキー市場は、数字上は成長が続く見通しです。プレミアム化、クラフト蒸留所、体験型消費。どれも前向きな言葉が並びます。

ただ、世界の在庫問題を横に置いて見ると、少し別の見え方もしてきます。

日本市場は本当に“需要が強い”のか。それとも、“丁寧に飲まれている”だけなのか。量としての拡大ではなく、消費の速度が落ち着いてきているようにも見えます。

料理人はここを見る:ブームは「量」から先に終わる

ウイスキーブームの終わり、という言葉は少し強いですが、料理の現場感覚で言うと、ブームはまず「注文数」から静かに変わります。

一気に流行ったメニューが、ある日を境に消えることはあまりありません。まず、回転が落ち、語られ方が変わり、定番だけが残る。その過程で、仕込みの量と提供のテンポが合わなくなります。

今の世界的な在庫調整は、そのズレが一気に表に出た状態にも見えます。


日本市場にとっての不安は「作りすぎないこと」

日本ウイスキーが同じ道をたどらない、とは言い切れません。

クラフト蒸留所の増加、設備投資、熟成在庫の積み上げ。どれも必要な動きですが、需要の“熱”を過大評価すると、数年後に同じ調整局面が訪れる可能性もあります。

特に、日本市場はブームのピークを過ぎると、消費量が一気に落ち着く傾向があります。焼酎やワインでも、似た景色を何度か見てきました。

まとめ

世界で在庫が膨らみ、日本では成長が語られる。この2つは矛盾しているようで、実は同じ時間軸の別の側面かもしれません。

ウイスキーブームの終焉は、急に訪れるものではなく、静かにテンポが変わる形でやってきます。今は、その入り口に立っているだけなのかもしれません。

伸びるか、落ち着くか。そのどちらに転んでも、無理をしない造り方と飲まれ方が残る。そんな未来も、十分ありそうです。

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この記事を書いた人

Yasui Youheiのアバター Yasui Youhei ウイスキープロフェッショナルの資格を持つシェフ

私は、ウイスキープロフェッショナルの資格を持つシェフです。ウイスキーの魅力を一人でも多くの人に広めたいと思い、ブログを開設しました。|TWSC審査員|ウイスキー文化研究所認定ウイスキーコニサー|調理師|1児のパパ

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