近年、ウイスキー業界において急速に存在感を増しているのが「インド産ウイスキー」です。
長らくスコッチ・ウイスキーの最大消費国の一つとして知られてきたインドですが、現在では世界的なウイスキー生産国としても注目を集めています。
これは単なるトレンドではなく、ウイスキー文化の大きな転換点といえるでしょう。
スコッチから国産シフトへ:変化する市場構造
インドは2023年、数量ベースでスコッチ・ウイスキーの最大市場となりましたが、スコッチにかかる150%という高関税は依然として解消されていません。
一方で、国内ブランドの品質向上と価格競争力が急速に進み、インド産ウイスキーへの注目が集まっています。
歴史あるインドのウイスキー文化
インドのウイスキーづくりの歴史は意外に古く、1855年創業のカサウリ蒸溜所をはじめ、1943年創業のランプール、1948年創業のアムルットなど、多くの蒸溜所が国内に存在します。
2004年、アムルットはグラスゴーで初のシングルモルトを発売し、2010年には『ウイスキー・バイブル』でアムルット・フュージョンが世界第3位に選ばれたことで国際的評価を確立しました。
現在ではポール・ジョン(ゴア)、インドリ(パンジャーブ)などの銘柄も台頭し、インドはプレミアム・シングルモルトの生産地として世界の舞台に登場しています。
驚異の市場成長とブランド力
インドのウイスキー市場は2024年に2億6,007万ケースに達し、2034年には倍の5億2,080万ケースになると予測されています。
現在、世界の売上ランキング上位20銘柄のうち8銘柄がインド産であり、McDowell’s No.1、Royal Stag、Officer’s Choice、Imperial Blueといったブランドは、Jim BeamやJack Daniel’sといった国際ブランドを凌駕する販売実績を誇ります。
ウッズメン・マウンテン・ウイスキーはその中でも急成長中のブランドで、わずか2州(デリーとチャンディーガル)で110万本以上を販売し、ARRが100兆円を突破。
創業者のシバム・ギングラニ氏は、「トップラインをEXTRA SMOOOOTHにした」と自信を語っています。
これは、品質とマーケティングの両輪による成功の象徴といえるでしょう。
熟成環境と風味の多様性
インド国内では、南部の高温多湿な気候から、北部のヒマラヤ山脈の冷涼な地域まで、実に多様な環境が存在します。
この環境の違いが、熟成速度やフレーバープロファイルに大きな影響を与えており、スコッチとは異なるユニークな風味をもつウイスキーが生まれています。
事実、インドの一部地域では、スコットランドの6倍の速度で熟成が進むといわれています。
スコッチ神話と国産ウイスキーの共存
いまだにザ・マッカランなどスコッチのプレミアムブランドは、ウイスキー愛好家にとって特別な存在です。
しかし、国内外の消費者は次第にインド産ウイスキーの品質と個性を受け入れるようになっています。
特に若年層や新興市場では、地元の優れた製品を選ぶ傾向が強まっています。
マハラジャ・ドリンクス社のイペ・ジェイコブ氏は、「かつては海外製が優れているという思い込みがありましたが、今ではインド人も国産品の卓越性を認識しています」と語ります。
まとめ
インド産ウイスキーは、もはやローカルな選択肢ではなく、世界の舞台で堂々と勝負できる実力を持つまでに成長しました。
質の高いクラフトウイスキーの登場とともに、これまでスコッチやバーボンに傾倒していた市場が、インド発のブランドにも目を向け始めています。
記事の要点まとめ:
- インドは2023年、スコッチ最大の輸出市場となったが関税は高止まり
- アムルット、ランプール、ポール・ジョンなどがプレミアム市場で台頭
- インド産ウイスキーは世界の売上上位20のうち8ブランドを占める
- ウッズメン・マウンテン・ウイスキーは急成長し、品質の新基準を提示
- 熟成スピードと環境多様性がユニークな風味を生む
- 若年層を中心に国産高品質ウイスキーへの需要が拡大中
- インドは今や“消費国”から“生産国”としての存在感を強めている
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