結論:二極化する市場、今こそ「品質と希少性」に立ち返るとき
2024年の年間市場に続き、2025年Q1もウイスキーの二次市場は試練の時期を迎えています。本記事では、前回のレポートと連動させながら、足元のデータや動向から今後の展望を読み解いていきます。
2025年初頭のマクロ環境とその影響
米国の関税・欧州の減速・中国の回復と混在する経済指標
世界経済は成長鈍化と地域間の分断が進んでいます。IMFの予測では2025年の世界GDP成長率は2.8%とされ、トランプ政権下の米国関税政策が影を落としています。欧州では成長鈍化と高インフレが続き、英CPIは2.6%で高止まり。金利も高水準を維持しています。
このような背景から、リスク資産全般への投資姿勢は慎重になっており、レアウイスキーもその例外ではありません。金融市場は緩和期待から株高傾向を示す一方で、実物資産には”選別買い”の空気が広がっています。
価格・ボリュームともに続く減速
平均価格は300ポンド未満が常態化、高額帯ボトルの存在感低下
- 取引ボリューム:前年同期比 -21%
- 取引金額:前年同期比 -53%
- 平均価格:2023年平均 £403 → H2 2024 £277、2025年1月時点は微増
市場は依然として厳しい局面にあります。特に£10,000超の高額帯のボリュームは激減し、全体取引金額の比率は30%以上も減少。
価格帯 | 2023年 取引額比率 | 2024年 取引額比率 |
---|---|---|
£1000未満 | 37.4% | 59.2% |
£1000以上 | 62.6% | 40.8% |
高価格帯はコレクターによる保有継続が影響。市場には出回らず、流動性は低下しています。
地域別トレンドの変化:スペイサイドからの資金流出
マッカラン依存のスペイサイドが縮小、スプリングバンクが堅調維持
2024年まではスペイサイドが取引額の約6割を占めていましたが、Q4 2024では52%に減少。特にマッカランの取引減が影響大です。代わってアイラ、キャンベルタウン、ハイランドがシェアを拡大しています。
地域 | 取引額シェア (Q4 2024) | 平均価格 (前年比) |
スペイサイド | 52% | -46% |
アイラ | 17% | -26% |
キャンベルタウン | 12% | -37% |
ハイランド | 16% | -24% |
ローランド | 3% | -24% |
スプリングバンクは引き続き人気が高く、21年、18年、12年CSなどが高値維持。今後もミドルレンジの安定株として注目です。
ブランド別パフォーマンス:縮小するトップブランドの影響力
ブランド | 取引額(過去2年) |
The Macallan | £30M以上 |
Springbank | £20M前後 |
Bowmore | £15M超 |
取引本数でもマッカランが依然1位ですが、2024年後半以降そのシェアは徐々に縮小。注目すべきはスプリングバンクの継続的な取引と、グレンドロナックやラガヴーリンの堅調な推移です。
中価格帯ボトルへの関心とボラティリティの増加
2025年Q1の取引データでは、10年〜15年の定番ボトルである以下のアイテムに高いボラティリティが見られました:
- Laphroaig 10 YO(ボラティリティ100%以上)
- Glendronach 12 YO
- Bowmore 12 YO
- Ardbeg 10 YO
これはコア商品であっても市場心理や流通タイミングで価格が乱高下することを示しており、特にフリッパー(転売狙い)や海外需要の影響も考えられます。
コレクター心理とオークションの戦略転換
全体として供給量が減少しており、未落札率が上昇していないことは「需要よりも供給の縮小が早い」ことを示しています。これは、底値感が漂う中で徐々に買い手が戻ってくる兆しとも読めます。
超高価格帯のマッカランやダルモアの古酒(例:60YO Lalique、Red Collectionなど)は依然として高額で取引されているが、その取引本数は限定的です。
一方で、£500〜2000のレンジにある限定品や、安定したミドルエイジのアイテム(例:Springbank 18YO)は”実需と投資の両立”を意識した買い手に支持されています。
まとめ
2025年Q1のウイスキーオークション市場を通じて見えてきたキーポイントは以下のとおりです:
箇条書きまとめ
- マクロ経済環境(関税・金利・インフレ)は依然として逆風
- 取引金額・平均価格ともに前年を大きく下回る
- £1000以下のセグメントが市場の中心に
- スペイサイド離れ、キャンベルタウン人気が継続
- ボラティリティ高い銘柄はエントリーレンジにも出現
- コアブランドでも市場縮小の影響が顕在化
- 超高価格帯は限定的な動きにとどまる
2024年の「調整の年」を経て、2025年は「再評価と再構築」のフェーズに入りました。今後は、投資家・愛好家ともに“本当に価値ある1本”を見極める目が問われる時代に突入しています。
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