アメリカのクラフトスピリッツ業界から、人事としては少し興味深いニュースが出ています。テネシー州を拠点とするカンパニー・ディスティリングが、キャシー・ハリー氏を新CEOに任命しました。
製造トップでも、創業者でもなく、マーケティングと小売、そしてホスピタリティを軸にキャリアを積んできた人物が前面に立つ。いまの市場環境を考えると、この選択そのものがメッセージのようにも見えます。
成長期から「耐える時期」へ
今回の人事が行われた背景として、米国クラフトスピリッツ業界の空気は無視できません。成長スピードは一時期ほどではなくなり、一方で消費者は、調達や製造の透明性、蒸留所での体験価値をより強く求めるようになっています。
量を出すより、関係を深める。ボトルだけでなく、場所や人を含めて選ばれるかどうか。そうした局面に入っている印象です。
キャシー・ハリーという人
ハリー氏は、代理店マーケティング、ブランド戦略、ホスピタリティ分野でのリーダーシップ経験を持ち、カンパニー・ディスティリングではマーケティングおよび小売事業を率いてきました。
入社以前は、東テネシーのリゾート施設「Little Arrow Outdoor Resort」で、最高マーケティング責任者兼COOを務めています。蒸留所単体ではなく、「滞在」や「体験」をどう設計するかに向き合ってきた経歴です。
蒸留所側の期待
創業メンバーの一人であり、元ジャック・ダニエルのマスターディスティラーでもあるジェフ・アーネット氏は、ハリー氏について「業務規律、創造性、そしてこの業界への純粋な愛情を併せ持つ存在」と評しています。
永続的なブランドをどう築くか、そして人の力をどう引き出すか。そのあたりに、彼女の役割を見ているようです。
拡大を続ける中で
カンパニー・ディスティリングは現在、アラバマ、コロラド、フロリダ、ジョージア、ミズーリ、オクラホマ、サウスカロライナ、テネシー、テキサスへと流通網を拡大しています。
メープルウッドでフィニッシュしたストレートバーボンやテネシーウイスキーを中心に、同社は一貫して「コミュニティとのつながり」を語ってきました。蒸留所体験と製品開発が地続きである、という考え方です。
業界全体の流れと重ねて見る
アメリカクラフトスピリッツ協会も、近年の消費者動向として「真正性」と「体験」を重視する流れを挙げています。蒸留所ツアーやテイスティングは、付加価値ではなく、ブランドの中核になりつつあります。
その意味で、ホスピタリティ畑のCEOという選択は、かなり現実的です。
料理人はここを見る
この人事は、「誰が酒を造るか」ではなく、「どんな場を作るか」に重心が移っていることを示しているように感じます。
味は前提。そのうえで、どこで、誰と、どう飲まれるのか。料理と同じで、体験の設計が問われる段階に入っています。
まとめ
キャシー・ハリー氏のCEO就任は、クラフトスピリッツ業界が次のフェーズに入ったことを示す一例かもしれません。
拡大一辺倒ではなく、関係をどう育てるか。その舵取りを、ホスピタリティ出身のリーダーに託した。この判断が、数年後どう評価されるのか。静かに見ておきたい動きです。



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