中国がスコッチウイスキーの輸入関税を引き下げました。税率は従来の10%から5%へ。2026年2月2日付で発効しています。
英国政府、とりわけキア・スターマー首相はこれを大きな成果として位置づけています。中国市場は金額ベースでスコッチウイスキーにとって10番目の市場。今回の合意により、今後5年間で約2億5,000万ポンドの経済効果が見込まれる、としています。
外に開き、内で締めるという矛盾
ただ、このニュースには、どうしても引っかかる“同時進行の話”があります。
関税引き下げが歓迎された、その数時間後。英国国内ではスコッチウイスキーにかかる物品税が3.66%引き上げられました。これで、直近3年弱での累積引き上げ率は約18%。平均的なスコッチウイスキー1本あたりの税額は、2023年の10.58ポンドから、現在は12.45ポンドにまで上昇しています。
輸出では追い風、国内では逆風。業界関係者が複雑な表情になるのも、無理はありません。
業界の不満が再燃する理由
スコッチ・ウイスキー協会(SWA)をはじめとする業界団体は、物品税の継続的な引き上げが成長を阻害していると、繰り返し警鐘を鳴らしてきました。
実際、昨年は酒類からの国庫収入見通しが6億ポンド以上も下方修正されています。税率を上げても、消費が落ち、結果として税収も伸びない。そうした構図が、数字として見え始めている、というわけです。
「蒸留所だけでなく、サプライチェーンやホスピタリティ全体に影響が及んでいる」。SWAのマーク・ケントCEOの発言は、現場感覚に近いものと言えそうです。
中国市場は“回復の兆し”
一方で、中国側の酒類市場には、わずかながら明るい材料も出ています。
春節前の需要増や卸売価格の回復を受け、白酒セクターでは大手メーカーの株価が上昇。長く冷え込んでいた投資家心理に、変化の兆しが見え始めています。
白酒が酒類需要の9割以上を占める中国において、スコッチはあくまでニッチな存在です。ただ今回の関税引き下げはスコッチに限らず、ウイスキー全体が対象となっています。住宅債務問題の落ち着きや接客需要の回復が進めば、スコッチに加えてジャパニーズウイスキーを含む他国産ウイスキーにも、徐々に追い風が及ぶ可能性があります。
加えて見逃せないのが、中国国内でのウイスキー生産そのものの動きです。近年、中国産ウイスキーも少しずつ存在感を増しており、市場全体としての関心は確実に高まりつつあります。
中国のウイスキー市場は、2030年に150億ドル規模に達するポテンシャルがあるとも言われています。ただし現時点で、蒸留酒全体に占めるウイスキーのシェアは約2%にとどまっています。裏を返せば、スコッチやジャパニーズウイスキーに限らず、中国産ウイスキーを含めて、今後の成長余地はまだ大きい市場とも言えそうです。
料理人は、ここを見る
このニュースは、「輸出が伸びるかどうか」だけで終わらせないほうがよさそうです。
今回の関税引き下げは、スコッチだけでなくウイスキー全体が対象です。中国はすでにジャパニーズウイスキーにとって最大の輸出先であり、現地では今もなお「高価格帯=スコッチかジャパニーズか」という認識が根強く残っています。関税が下がるということは、この価格帯での競争が、より露骨になるということでもあります。
一方で、置かれている状況は国によって異なります。スコッチでは国内の物品税が引き上げられ、蒸留所のコスト構造にじわじわと負荷がかかっています。日本では、日本市場そのものよりも、政治や為替を含めた外部環境の不安定さが、長期投資に慎重さを求める要因になりつつあります。
こうした条件が重なると、単に「売れるから増やす」という判断は取りづらくなります。原酒をどれだけ寝かせるのか、どのタイミングでどの価格帯に出すのか。リリース設計そのものが、以前よりも繊細なバランスの上に置かれる可能性があります。
派手な拡大ではなく、どこで踏みとどまり、どこに余白を残すのか。その判断が、スコッチだけでなく、ジャパニーズウイスキーにとっても、これまで以上に重みを持ち始めているように見えます。
まとめに代えて
中国の関税引き下げは、間違いなくポジティブなニュースです。ただし、それは単独で完結する話ではありません。
外に向けて門戸が開く一方で、内側の足場は安定しているのか。スコッチウイスキーを取り巻く状況を考えるうえで、この二つを並べて眺めておく必要がありそうです。



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