ウイスキーから、魅惑的なバニラの香りが楽しめる秘密とは?
ウイスキーの表現としてよく使われる「バニラ香」。
原料にバニラやバニラエッセンスなどバニラ風味をつけているわけではなく、穀物だけで作られているのに不思議だと感じるかもしれません。
バニラ香は熟成に由来しており、製造方法によってバニラの香りが得られる銘柄があります。
今回は、ウイスキーからなぜバニラ香を感じるのかウイスキーのプロが解説しつつ、おすすめの銘柄をご提案していこうと思います。
なぜウイスキーからバニラ香?
ウイスキーには、樽由来の様々な香りが含まれています。
その中でも、バニラの香りは特徴的です。
ウイスキーの熟成樽のほとんどはオーク材ですが、オーク材は良く焦がすことでバニラ香の元となる成分(バニリン)が生成されます。
ウイスキーの熟成過程で、このバニリンが樽からウイスキーに抽出されることで、バニラの香りが生まのですれるのです。
ウイスキーの樽熟成は「樽の中は小宇宙」と言われるほど解明されていないことが多いですが、樽の状態がバニラ香に大きな影響を与えていことがわかっています。
- 熟成期間の長さ
- 樽の経歴
- 内側の焦がし加減
など
熟成期間が長いほど、ウイスキーに樽の成分が抽出されやすいため、バニラ香も感じやすいです。
また、バーボンウイスキーのように内側を焦がした新樽を使用したウイスキーは樽のニュアンス・バニラ香が強くなります。
オークの種類による違いも大きいです。
バーボン樽に多いアメリカンホワイトオーク(クエルクス・アルバ)には、バニリンが豊富に含まれているため、クリーミーな味わいになりやすいと言われています。
対してシェリー樽に多いヨーロピアンオーク(クエルクス・ロブール)には、タンニンや没食子酸が多く渋みや複雑みのある味わいになりやすいです。
樽から得られるバニラの香り成分「バニリン」
バニリンは甘く魅惑的なバニラの香りを感じさせる成分です。
ウイスキーやラム、ブランデーなど樽熟成させるスピリッツの場合、熟成期間中に樽材からゆっくりと抽出されます。
バニリン(華尼林[1]、英: vanillin)は、バニロイド類に属す最も単純な有機化合物であり、バニラの香りの主要な成分となっている物質。(省略)
引用:バニリン|Wikipedia
天然物中にはバニラ、安息香、ペルーバルサム、チョウジ(クローブ)の精油などに含有されている。
オーク材にはリグニンという成分が含まれており、このリグニンが加熱されるとバニリンが生成されます。
そのため、しっかりと焦がした樽から強いバニラ香が得られるのです。
またウイスキーの長い熟成期間の中で、樽は温度変化や湿度の変化にさらされます。
これらの変化によって樽が適度に伸縮することで、樽内部のリグニンが分解され、バニリンが抽出されることもあるようです。
樽を加工したり、樽の成分がスピリッツによって分解されることでバニリンは生成されるのです。
実は、天然香料のバニラビーンズももともとバニラの香りがするわけではありません。
発酵と乾燥を何度も繰り返すことでバニリンが生まれ、青臭い香りから甘い香りになっていくのです。
「チャー」や「トースト」によって生成
ウイスキーから感じるバニラ香は、ほとんどが樽材に焼きを入れることで生成されます。
樽材に焼きを入れる方法は主に2種類あり、それぞれ異なる特徴のバニラ香を生み出します。
チャー | 直火で炙る方法 | 力強いバニラ香 |
---|---|---|
トースト | 遠赤外線で焦がす方法 | 上品なバニラ香 |
バーボンやライウイスキーでは、内側を焦がした新樽の使用が義務となっており、直火でダイナミックに炙る「チャー」が用いられます。
内側の焦がし加減が強い樽で熟成されたウイスキーは、スパイシーで力強くしっかりとしたバニラ香が特長です。
バーボンの有名ブランド「ワイルドターキー」では、ワニの皮のようにごつごつになるまで焦がした樽(アリゲーターチャー)が使用されています。
チャーとは対照的に、トーストはより穏やかなプロセスです。
樽の内側を低温で長時間(約 20 時間)焼くことで、チャーよりも深いところまで木材を焦がしていきます。
トーストされた樽で熟成させたウイスキーは、バニラやココナッツ、トーストしたパン、はちみつなど柔らかく甘いノートが特長。
一般的に繊細な風味を持つシングルモルトウイスキーやポットスチルウイスキーなどの熟成に使用されます。
トーストされた木材はウイスキーの風味を圧倒することなく、微妙な風味の層を引き出すことができるからです。
- ヘミセルロースの分解による多糖類の生成(コク、まろやかさ)
- カラメル反応によるカラメル香
- トースト香の生成
- フェノール類の生成によるスパイス香(クローブなど)
- スピリッツの未熟香を減少
熱を加えることでオーク材の組織が一部破壊され、トースト層の香味成分が活性される。チャーやトーストにはライトからヘビーまでさまざまな度合いがあり、クーパレッジ(樽工房)が注文に応じて加熱の程度を変える。フランスにあるASCバレルズの創業者兼オーナー、アレグザンドル・サコン氏が説明する。
「トーストのレベルを変えることで、バニリンの風味表現は複雑かつ多彩な変化を見せてくれます。トーストを軽くすれば、フローラルで軽いバター風味。ミディアム以上のトーストはバニラポッドの香りやスパイシーな風味を引き出します。でもこのトーストの時間や温度には一定の水準といったものがなく、クーパレッジごとに微妙に異なった時間や温度でトーストをおこなっているのが実情です」
引用:WHISKY Magazine|バニラ香の秘密
バニラ香の表現
ウイスキーにおいてバニラ香は、複雑さと深みを与える香りでアルため、単に「バニラ」と表現するのは味気ないかもしれません。
そこで「バニラ」の香りを少しブラッシュアップしてみました。
バニラビーンズ | 天然香料のような複雑で上品なバニラ香。 ビターな大人のニュアンス。 |
---|---|
バニラエッセンス | ダイレクトでやや単調なバニラ香。 バニラ風味のお菓子のような懐かしいバニラ香を感じた時に。 |
バニラアイス カスタードクリーム プリン | ミルキーな口当たりやほのかな硫黄感と甘いバニラフレーバーが重なるときに。 |
トフィ バタースコッチ | キャラメル味のお菓子のフレーバー。 カラメル香と重なるバニラの香りがあったときに使うと良いかもしれません。 |
ぜひウイスキーのバニラ香を表現するときに参考にしてみてください。
バニラ香が楽しめるオススメのウイスキー銘柄一覧
甘美で魅惑的なバニラの香りを感じるウイスキー。
リラックスした時間のお供にぜひお楽しみください。
バニラ香が特徴のスコッチウイスキー
バニラ香を特徴とするスコッチウイスキーをご紹介します。
スコッチウイスキーには、主にシングルモルトウイスキーとブレンデッドウイスキーがありますが、ともに上品なバニラ香を感じさせる銘柄が多いです。
ブレンデッドウイスキーでは複層的な味わいの中に、繊細なバニラ香を感じさせてくれますが、シングルモルトは多彩な個性とともに上品なバニラ香を楽しませてくれます。
スパイサイド | 上品なバニラ香やはちみつの華やかな甘い香りを感じさせるウイスキーが多く、シェリー樽熟成にもバニラ香を感じることがあります。 (EX:グレンフィディック、マッカラン、グレンリベット、バルヴェニーなど) |
---|---|
ハイランド | 上品なバニラにフローラルやハーブの印象を感じる銘柄が多く、厚みのある味わいが特長です。 (EX:グレンモーレンジィ、グレンタレット、グレンドロナックなど) |
アイラ | 独特なスモーキーフレーバーが特長ですが、クセのあるピート香の奥にバニラ香を感じる銘柄も多いです。 (EX:ラフロイグ、アードベッグ、キルホーマンなど) |
アイランズ | バーボン樽で熟成させたアイランズモルトは、島ごとの個性と共にやわらかなバニラ香を楽しませてくれます。 (EX:アラン、タリスカー、ハイランドパーク、ジュラなど) |
ローランド | スコッチモルトウイスキーの中では飲みやすく穀物様を感じる銘柄が多く、ライトな味わいから繊細なバニラ香を感じやすいです。 (EX:オーヘントッシャン、グレンキンチーなど) |
キャンベルタウン | ソルティ、フルーティ、スモーキーと複層的な個性が楽しめる銘柄が多く、深く芳醇なバニラ香を楽しませてくれます。 (EX:グレンスコシア、スプリングバンクなど) |
また、バニラ香を楽しむスコッチウイスキーを選ぶ際には、熟成年数も参考にすることがおすすめです。
一般的に、熟成期間が長いほど、バニラの香りがより強く感じられるようになります。
デュワーズ 15年
おすすめ度
8/10
フルーティさとともに感じる上品なバニラ香
ジャンル | ブレンデッドウイスキー |
---|---|
生産国 | スコットランド |
アルコール度数 | 40% |
樽 | ‐ |
熟成年数 | 15年 |
デュワーズの長い歴史の中でも初の女性のマスターブレンダーである7代目の”ステファニー・マクラウド”女史が手掛けた一本。
アバフェルディ蒸留所のモルト原酒を中心に15年以上熟成された40種類以上の原酒をブレンドしております。
甘く華やかでフルーティな香りとまろやかな余韻が特徴。
ストレートからハイボール、ロック、カクテルと幅広く楽しめます。
美しいボトルデザインはプレゼント用などお祝いのギフトとしてお喜びいただけるでしょう。
ジョニーウォーカー ゴールド
おすすめ度
9/10
なめらかな口当たりのため、ブリュレようなバニラ感
グレングラント アルボラリス
おすすめ度
7/10
フルーティさとともに感じる優しいバニラ香
グレンモーレンジィ ネクタードール
おすすめ度
8/10
桃のようなフルーティさとともに感じるコクのあるバニラ香
バニラ香が特徴のアメリカンウイスキー
バーボンやテネシーウイスキーなど、アメリカンウイスキーの中にはバニラの香りが楽しめる銘柄が数多く存在します。
これは、アメリカンウイスキーの製造過程で用いられる樽に秘密があります。
アメリカンウイスキーは、法律で新樽の使用が義務付けられています。
新樽とは、一度も使用されていない樽のことです。
新樽には、バニリンというバニラの香りの元となる成分が含まれています。
ウイスキーが新樽の中で熟成される過程で、バニリンがウイスキーに抽出され、バニラの香りがつくのです。
バニラの香りは、ウイスキーの風味をより複雑で奥深いものにします。
ウイスキー初心者の方にも飲みやすく、またデザートと一緒に楽しむのにも最適です。
ぜひ、バニラの香るアメリカンウイスキーを試してみてはいかがでしょうか。
ウエストランド アメリカンシングルモルト
おすすめ度
9/10
トーストウッドと感じるビターなバニラ香。
ジャンル | シングルモルト |
---|---|
生産国 | アメリカ・シアトル |
アルコール度数 | 46% |
樽 | 新樽 1stフィルバーボン樽 1stフィルシェリー樽 2ndフィルシェリー樽 |
熟成年数 | 3年4か月以上 |
ワシントン州シアトルからアメリカンウイスキーにシングルモルト市場の開拓をしてきたウエストランド蒸留所。
10年以上にわたる取り組みの集大成として誕生したフラグシップボトルが、「ウエストランド アメリカンシングルモルト」です。
ナッツやチョコレートのようなコクのある香りに甘くなめらかな口当たり、深い余韻が特徴。
スコットランドのモルトウイスキー造りに忠実ながら、アメリカのフロンティア精神を持ち合わせたシングルモルトです。
ウッドフォードリザーブ
おすすめ度
8/10
コクのある甘美なバニラ香
ジャンル | バーボンウイスキー |
---|---|
生産国 | アメリカ・ケンタッキー州 |
アルコール度数 | 43% |
樽 | 新樽 |
熟成年数 | ‐ |
ケンタッキー州最古の蒸留所といわれているウッドフォードリザーブ。
クラフトマンシップに則った少量生産のスーパープレミアムバーボンウイスキーです。
マッシュビルはコーン72%、ライ麦18%、モルト10%と一般的なバーボンよりライ麦比率の高くなっています。
ライ麦由来のスパイシーな香味、クランベリーのようなフルーティさ、甘く芳醇な樽香が特徴。
ストレート、ハイボール、ロック、カクテルと幅広く楽しめる銘柄で、世界中のプロのバーテンダーから支持されています。
バニラ香が特徴の日本のウイスキー
日本のウイスキーにもバニラ香が楽しめる銘柄は多いです。
日本で使用される樽にはアメリカンオークやミズナラなど、バニリンが豊富に含まれたものが多く用いられます。
またスコットランドより平均気温が高い日本では、樽のニュアンスがよく出やすいです。
スコットランドと同じく再利用樽が主に使われるため、繊細で上品なバニラ香がお楽しみいただけます。
バニラ香が楽しめる日本のウイスキーは、ストレートやロックで飲むのがおすすめです。
シングルグレーンウイスキー 富士
おすすめ度
9/10
カスタードプリンのカラメル部分のようなバニラ香
富士山麓の伏流水を贅沢に使用した「富士御殿場蒸留所」のグレーン原酒のみで作られた一本。
同蒸留所は、異なる特徴を持つ3タイプの連続式蒸留機から多彩なグレーンウイスキーを造り分けています。
バニラやシリアル、オレンジマーマレード、焼き菓子のようなフレーバーが複層的に重なり、甘みのある芳醇で深い余韻が広がります。
シングルグレーンウイスキー富士は、キリンの世界的に見ても類を見ないグレーンウイスキーへのこだわりが楽しめる一本です。
イチローズモルト モルト&グレーン ホワイトラベル
おすすめ度
6/10
軽快なフルーティさとともに感じるバニラ香
バニラが特徴のアイリッシュウイスキー
アイリッシュウイスキーは、なめらかな口当たりと甘い香りに定評があり、バニラ香が楽しめる銘柄は特にその特徴が楽しめるでしょう。
アイルランドの伝統的な製法で作られたアイリッシュウイスキーは、一般的に3回蒸留され、バーボン樽で熟成されることが多いです。
この熟成過程が、アイリッシュウイスキーに特徴的なバニラ香を生み出します。
バニラ香が楽しめるアイリッシュウイスキーは、ストレートやロックで飲むだけでなく、カクテルにもおすすめです。
特に、アイリッシュウイスキーベースのカクテル「アイリッシュコーヒー」は、バニラ香とコーヒーの香りが絶妙にマッチします。
バニラ香が楽しめるアイリッシュウイスキーをぜひ一度試してみてはいかがでしょうか。
バスカー ブレンデッドウイスキー
おすすめ度
8/10
南国フルーツのような華やかフルーティさとバニラ香
ジャンル | ブレンデッドウイスキー |
---|---|
生産国 | アイルランド |
アルコール度数 | 40% |
樽 | バーボン樽 シェリー樽 マルサラ樽 |
熟成年数 | ‐ |
ロイヤルオーク蒸留所で作られているブレンデッドウイスキー「バスカー」。
アイリッシュのウイスキー原酒3種類(モルト、グレーン、ポットスチル)のうち、モルト原酒とポットスチル原酒を一般的なアイリッシュブレンデッドウイスキーより多く使用。
贅沢にバーボン樽、シェリー樽、マルサラ(老舗トップブランドの「フローリオ」)樽で熟成させた原酒をブレンドしています。
トロピカルフルーツのような華やかな香りにやわらかな甘み、トロっとした口当たりが特徴。
リーズナブルな価格のスタンダードアイリッシュブレンデッドですが、ワンランク上の味わいがお楽しみいただけます。
バニラ香が楽しめるウイスキーとのペアリング
バニラ香が楽しめるウイスキーは、バニラアイス、トフィ、バタースコッチ、クレームブリュレ、洋ナシのコンポートなどのデザートとのペアリングがおすすめです。
バニラを使ったデザートとバニラの香りが同調し、ペアリングしやすくなります。
また、ハイボールなら肉料理やクリームを使った料理と合わせることもおすすめです。
バニラの持つコクのある甘い香りが、カリフラワーのムースやクリームシチュー、牛肉のステーキなどの味わいを引き立ててくれます。
バニラの香りが楽しめるウイスキーはそれだけで美味しいですが、料理やデザートとのペアリングもぜひお楽しみください。
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[…] また、スモーキーなウイスキーよりフルーティーな香りやバニラの甘みが強いウイスキーの方がトワイスアップにすることで魅力が一層引き立ちやすくなります。 […]