2025年3月4日、イギリス政府はシングルモルトウイスキーの定義を変更せず、従来の基準を維持する方針を発表しました。
この決定は、イングリッシュ・シングルモルトウイスキーの地理的保護制度(GI)申請をめぐり、業界関係者からの懸念が高まる中で下されたものです。
シングルモルトウイスキーの定義を巡る議論
シングルモルトウイスキーとは、単一の蒸溜所で造られたウイスキーのことを指し、スコッチウイスキーにおいては長年にわたり厳格な規制が設けられています。
スコッチ・ウイスキーの法的な定義は、2009年のスコッチ・ウイスキー規則に基づいており、以下の条件を満たすことが必要です
項目 | スコッチ・シングルモルトウイスキーの条件 |
---|---|
原料 | モルト(大麦麦芽のみ) |
生産地 | スコットランド |
蒸溜 | 単一蒸溜所 |
熟成 | スコットランドで3年以上の熟成 |
樽 | オーク樽 |
アルコール度数 | 最低40% |
一方で、イングリッシュ・シングルモルトウイスキーのGI申請では、単一の蒸溜所での蒸溜を必須とせず、「英国の蒸溜所で、地元の水と穀物を使用すること」と定義されていました。
この定義が適用されると、スコッチ・ウイスキー業界の長年の伝統が脅かされる可能性があるとして、スコッチ・ウイスキー協会(SWA)は強く反発。
両者の意見が対立する状況が続いておりました。
政府の決定とその背景
この問題に関して、イギリス財務省のダレン・ジョーンズ財務長官は、環境・食料・農村地域省(Defra)との協議を行った結果、シングルモルトウイスキーの定義を変更しないことを確認しました。
ジョーンズ財務長官は
「スコッチ・ウイスキーはイギリスの誇るブランドであり、輸出品です。定義の改変によってその評判に傷がつくことは避けなければなりません」
と述べ、業界の懸念に対する政府の立場を明確にしました。
業界関係者の反応
スコッチ・ウイスキー協会の広報担当者は、
「スコッチ・ウイスキーの製法と伝統は何世紀にもわたる歴史を持つものです。この定義が水増しされることは、シングルモルトの価値とブランドイメージを大きく損なう可能性があります」
とコメントしています。
また、スコットランド国民党のジョン・スウィニー首相も
「スコッチ・ウイスキーのアイデンティティと特徴を守るために必要な措置を講じる」
とホーリールードで発言しました。
シングルモルトウイスキーの価値
スコッチ・ウイスキーはイギリス最大級の輸出品であり、2024年の輸出額は54億ポンドに達しました。
これはイギリスの総食品・飲料輸出の25%に相当します。
シングルモルトウイスキーは、職人技と長い熟成期間によって生まれる複雑な風味が魅力であり、世界中のウイスキーファンに愛されています。
特にスコッチ・シングルモルトウイスキーは、産地や製法に厳格な基準があるため、その品質と信頼性が高く評価されています。
種類 | 特徴 | 代表銘柄 |
スコッチ・シングルモルト | スコットランド産、大麦麦芽100% | マッカラン、ラフロイグ |
イングリッシュ・シングルモルト | イギリス産、地域の穀物使用 | レイクス、チッピントン |
今後の展望
今回の政府の決定は、スコッチ・ウイスキー業界にとって一安心といえるでしょう。
しかし、イングリッシュ・シングルモルトウイスキーの台頭により、今後も市場の競争は激化すると予想されます。
ウイスキー市場は、新たなプレイヤーが革新的な製法を取り入れながら、伝統とのバランスを模索していかなくてはいけません。
今後の法規制の動向や消費者の嗜好の変化に注目が集まるでしょう。
シングルモルトウイスキーの愛好家としては、それぞれの地域のウイスキーの個性や歴史を理解し、適正な基準が守られることを見守っていく必要があるでしょう。
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