英国で進行中の「シングルモルト・イングリッシュ・ウイスキー」の地理的表示(GI)申請をめぐり、スコッチ・ウイスキー業界から懸念の声が上がっています。
特にスコットランドのハイランド地方やモーレイ地域にとって重要なこの産業が、今回の計画によって深刻な影響を受ける可能性があるとして、政治家や業界関係者が強く反発。
この記事では、議論の中心となっている「GI申請」の内容と、それに対するスコッチ・ウイスキー協会やスコットランドの政治家の主張をわかりやすく解説いたします。
そもそも「シングルモルト・ウイスキー」とは?
まず、「シングルモルト・ウイスキー」の定義について整理しておきましょう。
スコッチ・ウイスキーにおける「シングルモルト」は、以下の条件を満たす必要があります。
項目 | スコッチ・シングルモルトの要件 |
---|---|
原材料 | 大麦麦芽のみ(モルト) |
製造地 | 単一の蒸溜所 |
発酵・蒸留・熟成 | 全てスコットランド国内で行われること |
蒸留方式 | ポットスチル(単式蒸留器)を使用 |
熟成年数 | 最低3年間、オーク樽で熟成 |
このように、スコッチ・シングルモルトは「スコットランド」という土地と密接に結びついた製品です。

スコッチは「地域」と「伝統」が命!
労働党政権が推進するGI申請とは?
今回の議論の発端は、イングランドの蒸溜所で製造されたウイスキーに対し、「シングルモルト・イングリッシュ・ウイスキー」という地理的表示(GI)を認定しようとする動きにあります。
英国の環境・食料・農村地域省(Defra)は、この申請について「関連要件を満たしている」との認識を示しました。
一方で、スコットランドのMSP(スコットランド議会議員)やスコッチ・ウイスキー協会は、これに強く反発しています。
ハイランド&アイランズ選出のダグラス・ロスMSPは、「この動きはスコッチ・ウイスキー業界にとって破滅的なものになる」と警鐘を鳴らしました。
彼はさらに、「定義の曖昧化がスコッチのブランド力を毀損する恐れがある」と指摘しています。
2024年:イングリッシュ・ウイスキー・ギルドがGI申請
2025年:Defraが申請の適格性を認める
「この動きは、スコッチ・ウイスキーの名声に深刻な損害をもたらす」 ― スコッチ・ウイスキー協会
何が問題なのか?──「定義の形骸化」と「地域性の喪失」
スコッチ・ウイスキー協会によれば、イングランドのGI申請では「麦芽」「発酵」「蒸留」のいずれも単一の蒸溜所で行う必要がない、あるいは規定が曖昧になっている可能性があります。


この点について、協会は次のように述べています。
「イングランドで提案されている製法は、スコッチの厳格な基準と比較して簡素化されており、ウイスキーが生まれる“場所”との結びつきが希薄になる。」
これは、スコッチ・ウイスキーにとって極めて重要な「地域アイデンティティ」──つまりテロワール(風土)が失われることを意味します。
さらに、消費者が「シングルモルト」と聞いて思い浮かべるのはスコットランド産のウイスキーであることが多く、この用語が他国でも使用されることにより、ブランドの信頼性そのものが揺らぎかねないというのが、スコッチ業界側の主張です。


スコットランド政治家たちの反応
ホリールード(スコットランド議会)での討論では、与野党の政治家がこの問題について意見を交わしました。
ロス氏は、労働党政府に対して「このような申請は却下すべき」と強く主張。
また、スコットランド労働党のMSPローダ・グラント氏も、「産業に悪影響を与える可能性がある以上、政府は慎重になるべきだ」と述べ、保守党議員と連携する姿勢を見せました。
ウイスキー業界が求める明確な対応
このような中、スコッチ・ウイスキー協会や政治家たちは共通して「労働党政権は、この申請を明確に却下すべき」と訴えています。
ロス氏は、ダニエル・ツァイクナー大臣からの書簡の内容に言及し、「政府は扉を閉じていない」として計画がまだ進行中であると警告。
これに対し、明確な拒否がなければ、業界の懸念は拭えないと述べています。
まとめ
今回の「シングルモルト・イングリッシュ・ウイスキー」の地理的表示申請をめぐる問題は、単に用語の使い方をめぐる論争にとどまらず、スコッチ・ウイスキーという国際的ブランドの信用と市場価値に直結する重要な議題です。
スコッチ・ウイスキーが築いてきた厳格な定義と品質基準が、他地域の柔軟な制度によって揺らぐことになれば、消費者の混乱を招くだけでなく、スコットランド経済にも打撃を与えかねません。
今後、英国政府および労働党政権がこの申請にどのような結論を出すかが、世界のウイスキー市場にも影響を与えることになりそうです。
記事まとめ(箇条書き)
- 英国で「シングルモルト・イングリッシュ・ウイスキー」のGI申請が進行中
- スコッチ・ウイスキー協会は「業界の名声に損害を与える」と反発
- スコットランド政治家らは「定義の曖昧化がブランドを脅かす」と警告
- 現在の申請では、スコッチと異なり一貫製造が必須でない可能性も
- 労働党政府に対し、「申請の却下」を求める声が高まっている
- スコッチ・ウイスキーのブランド保護と法的定義の厳守が焦点
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