スコットランド北部の海辺の町ドーノックに拠点を構えるトンプソン・ブラザーズ社が、ウイスキー業界の未来に向けて新たな一歩を踏み出しました。
同社が現在建設を進めている「ストライー蒸溜所」は、再生可能エネルギーを活用した持続可能なモデルとして注目を集めており、業界全体に大きな影響を与える可能性を秘めています。
自給自足型の蒸溜所、再生可能エネルギーで運営
ストライー蒸溜所の最大の特徴は、オフグリッド運営を前提とした完全電化システムです。
主に太陽光発電による大型ヒートポンプで電力をまかない、加えて風力発電や地域の再生可能エネルギーの余剰電力を補完的に利用しています。
これにより、従来の化石燃料依存型のウイスキー製造とは一線を画すエコシステムを構築しています。
共同創業者でCTO(最高技術責任者)のサイモン・トンプソン氏は、「私たちは業界の旗手であると同時に、技術革新のモルモットでもあります」と語り、持続可能な未来に対する強い意志を示しました。
さらに、季節に応じた生産スケジュールも導入予定です。
夏季に生産量を増加させ、日照時間と発電効率の高い期間を活かす一方で、冬季には生産を抑え、自然エネルギーの効率的な活用を追求します。
クラウドファンディングで資金調達、生産能力の大幅増強へ
この革新的な取り組みを支えるため、トンプソン・ブラザーズ社はクラウドファンディングを通じて180万ポンド(約3億4,000万円相当)の資金を調達しました。
調達資金は、ヒートポンプ技術を用いた蒸溜設備に加え、瓶詰め、ラベリング、出荷までのすべての生産工程を一貫して行える施設の建設に使用されます。
ストライー蒸溜所は、初年度に25万リットル、将来的には年間40万リットルのスピリッツ生産を目指しており、従来のドーノック蒸溜所での年間生産量2万リットルから大幅なスケールアップが図られています。
業界をリードするエネルギー効率を追求
スコッチウイスキー業界では、生産された純アルコール1リットルあたりのエネルギー使用量(KwH/LPA)が持続可能性の重要な指標となっています。
一般的な蒸溜所では平均8KwH/LPAとされ、7.5以下が「良好」と評価される中で、ストライー蒸溜所は3KwH/LPA以下を目標に掲げています。
さらに将来的には2.56KwH/LPAまでの削減も視野に入れており、これは業界最先端とされるシーバス・ブラザーズ(3.89)や、アイルランドのアハスクラグ蒸溜所(3.69)をも凌ぐ水準です。
このように、ストライー蒸溜所は単なる新設施設ではなく、業界のエネルギー効率の新たなベンチマークとなることが期待されています。
小規模ブランドの大胆な挑戦
トンプソン・ブラザーズは、規模こそ大手には及びませんが、その柔軟性と先進的な取り組みは業界内外から高い評価を受けています。
旧ドーノック蒸溜所では、すでにガスから電気へのエネルギー転換を実施し、持続可能な生産体制の構築に成功しています。
ストライー蒸溜所の建設は、これまでの実績を土台にさらなる革新を目指すものです。
施設の稼働開始は2026年末を予定しており、現在はアクセス道路や倉庫の建設、基礎工事が進行中です。
次世代スコッチへの新たな道筋
「スモール&スマート」の思想に基づき、コストや妥協ではなく「未来への投資」として位置づけられるこの取り組みは、大手ブランドでは困難な迅速な実行力と柔軟性を活かした好例といえるでしょう。
ストライー蒸溜所のような完全電化かつ自社一貫生産体制のモデルは、今後の新設蒸溜所における重要な指標として注目されるはずです。
ストライー蒸溜所 スペック一覧
所在地 | スコットランド・ドーノック近郊 |
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運営開始予定 | 2026年末 |
年間生産能力(最大) | 40万リットル |
初年度生産予定量 | 25万リットル |
エネルギー源 | 太陽光、風力、地域再エネの余剰電力 |
エネルギー効率目標 | 3KwH/LPA以下(最終目標2.56) |
資金調達方法 | クラウドファンディング(180万ポンド、約3億4,000万円相当) |
設備特徴 | 完全電化、オフグリッド、全工程自社内完結 |
まとめ
トンプソン・ブラザーズによるストライー蒸溜所のプロジェクトは、ウイスキー業界におけるサステナビリティの可能性を大きく広げる試みです。
エネルギー効率の革新、完全自給自足の運営、そしてクラウドファンディングを通じた柔軟な資金調達など、小規模ながらも次世代のスコッチ製造に求められる要素をすべて備えています。
- トンプソン・ブラザーズがストライー蒸溜所を建設、サステナブルな運営を実現
- 太陽光・風力を活用したオフグリッド型の完全電化蒸溜所
- クラウドファンディングで180万ポンド(約3億4,000万円)を調達、年間40万リットルの生産能力へ
- エネルギー効率は業界平均の半分以下を目指す(最終目標2.56KwH/LPA)
- 製造工程をすべて自社内で完結させる革新的モデル
- 2026年末の稼働開始を予定し、スコッチウイスキーの未来像を提示
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