アメリカン・シングルモルトの代表的存在であるウエストワード・ウイスキー(オレゴン州ポートランド)は、2025年4月、連邦破産法第11条(サブチャプターV)適用を正式に申請しました。
これにより、経営権を維持しながら財務再建を進めることが可能になります。
独立系蒸溜所が直面する現実と選択
ウエストワードを所有するハウススピリッツ蒸留所は2004年に創業され、アメリカン・シングルモルト・ウイスキー委員会(ASMWC)の創設メンバーでもあります。
同社は革新的なウイスキーづくりで多くのファンを魅了してきました。
しかし、昨今の経済情勢や業界環境の変化により、ウエストワードも深刻な財務的課題に直面。
CEOのトーマス・ムーニー氏は次のように語っています。
「昨年、消費者からの関心は高まりましたが、クラフト・ディスティラーとして今後も成功するには、財務的・戦略的な見直しが不可欠でした。今回の再構築は、将来の競争と成長に備えるための前向きなステップです。」
財務難の背景と課題
ムーニー氏によれば、同社が直面した課題は多岐に渡ります:
- COVID-19後の蒸溜酒需要の低迷
- インフレによる原材料・物流・サービスコストの増加
- 輸出関税による影響
- 過去の契約に基づく過大な債務
- 生産設備や在庫への過剰投資
これらが複合的に作用し、現金流動性に深刻な影響を及ぼしました。
申請書には「非典型的な出来事の連続が財務の悪化に繋がった」と記されています。
再建計画と事業継続
現在、ウエストワードは「価値の保存と事業継続」を目的とし、リストラ計画の策定を進めています。
その一環として、以下の方針を示しています:
- 負担の大きい契約の見直し
- 雇用の維持
- 新しい市場ニーズに対応する事業計画への転換
また、同社はアメリカン・ウイスキーの中でもプレミアム市場(75ドル以上)でのポジション確立を掲げており、「トップ10入り」を目標としています。
自信の裏付け:実績と資産
ウエストワードは、以下の点をもって再起の可能性を強調しています:
- 豊富なウイスキー在庫
- 拡張可能な販売チャネル
- 高い評価を得た製品群と受賞歴
- 契約蒸溜事業(過去にはアビエーション・ジンを製造)
現在はディアジオ傘下でライアン・レイノルズが関与するアビエーション・ジンも、かつてウエストワードが生産していた製品の一つです。
業界全体の流れと重なる動き
近年、ウイスキー業界では経済的な苦境が相次いでいます。
例えば:
- Stoli Vodkaの米国部門が2024年に第11章申請
- アイルランドのウォーターフォード蒸溜所が2024年11月に破産管財人下へ
- グレングラッサ蒸溜所(スコットランド)は今年初頭、生産体制を縮小
こうした動きの中で、ウエストワードの再建も業界全体の動向と無関係ではありません。
まとめ
- ウエストワードが連邦破産法第11条(サブチャプターV)適用を申請
- 原因はインフレ、関税、過剰在庫などによる財務悪化
- 再建計画により事業は継続、雇用も維持予定
- 高級アメリカン・ウイスキー市場での再起を目指す
- ウイスキー業界全体でも再編が進行中
CEOムーニー氏の言葉通り、今回の申請は「ウエストワードの未来を切り拓くための戦略的な再出発」として注目されています。
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