近年注目を集めていた高級スコッチウイスキーのオークション市場に陰りが見え始めています。スコットランドの財務アドバイザリー会社Noble & Coが発表した最新データによると、2025年1月までの3ヶ月間において、シングルモルト・スコッチの取引量および販売価格はともに大きく落ち込みました。
この動向は一時的な変動ではなく、2023年から続く全体的な下落トレンドの延長線上にあるとみられています。特に1,000ポンド(約20万円)を超えるハイエンド・ボトルの比率が大幅に減少しており、コレクター心理の変化や市場構造の変動が背景にあると考えられます。
本記事は、The Drinks Business(2025年5月27日付)に掲載されたArabella Mileham氏の報道「High-end Scotch continues to languish at auction」および、スコットランドの財務アドバイザリー会社Noble & Coによるマーケットレポートに基づいて構成されています。
シングルモルト市場の現状と数字で見る変化
市場動向の要約
2025年1月までの3ヶ月間で、シングルモルト・スコッチの取引量は前年同期比で21%減少しました。加えて、販売額に至っては前年比53%という急激な落ち込みを記録しています。平均価格も大幅に下がっており、2023年には1本あたり403ポンドだったものが、2024年後半には277ポンドにまで落ち込んでいます。
ウイスキーの平均価格推移(1本あたり)
年度 | 平均価格(ポンド) | 平均価格(日本円)※1ポンド=190円換算 |
---|---|---|
2023年 | £403 | 約76,570円 |
2024年後半 | £277 | 約52,630円 |
高価格帯ボトルのシェア減少
1,000ポンド(約190,000円)以上で取引されるボトルの割合は、1年前の62.2%から現在は40.4%にまで減少しました。これは高額コレクターが慎重姿勢を取っていることに加え、洗練された収集家たちが「今の市場価格では売らない」という判断をしているため、供給自体も減少傾向にあります。
下落の要因とその裏にある心理的背景
なぜ価格と取引が落ち込んでいるのか?
- 経済全体の不透明感:インフレや金利上昇により高額商品への投資意欲が減退
- マーケットの成熟化:一部のコレクターは市場価格よりも「コレクション価値」を重視
- 需給の変化:供給が需要よりも早く減少している
実例:季節的な上昇の限界
Noble & Coのレポートでは、2024年9月〜10月に一時的な「季節的上昇」が見られたものの、それ以降も3ヶ月平均価格は下降を続けており、2023年5月以降の継続的な価格下落の流れが続いていると指摘されています。
今後の展望と市場回復の可能性
価格調整による買い手の回帰も視野に
現在、供給量が需要よりも急速に減少しているという点は、市場にとってポジティブな要素です。今後、価格がさらに下がることで、新たな買い手が市場に戻ってくる可能性があります。特に、これまで高騰しすぎた価格帯の商品が現実的な価格に戻れば、再び動きが活発化することも予想されます。
ブランドごとの影響にも差
平均価格以上で販売されるブランドは特に苦戦する傾向にあります。こうしたプレミアムブランドは、価格調整の影響を受けやすく、供給と需要のバランスを慎重に見極める必要があります。
まとめ
高級スコッチのオークション市場は、2023年から続く下降トレンドに沿って2025年も冷え込みが続いています。特に高価格帯ボトルのシェアが減少し、価格も著しく下がっていることから、コレクターや投資家の心理的変化が如実に表れています。ただし、供給量の減少は需要とのバランスを取り戻すチャンスにもなりうるため、今後の価格調整によっては市場の回復も期待できます。
記事の要点まとめ
- シングルモルト・スコッチの取引量は前年同期比で21%減
- 販売額は53%減、平均価格も£403から£277へと下落
- 高価格帯(1,000ポンド超)の取引比率が62.2%から40.4%に減少
- コレクターの慎重姿勢と供給減が影響
- 市場回復の鍵は価格調整と新規買い手の呼び戻し
(執筆:ウイスキー専門ライター)
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