スコットランドを代表するシングルモルトの一つ「グレンゴイン」を製造するイアン・マクロード・ディスティラーズが、2024年度の会計報告において「数十年ぶりの業績不振」に見舞われたことが明らかとなりました。新型コロナウイルスの影響から立ち直ったと思われたウイスキー市場が、アジア圏を中心とする輸出需要の冷え込みにより、再び逆風にさらされています。
本記事では、この業績悪化の背景、業界全体への波及効果、そしてグレンゴイン蒸留所が今後どのように立て直しを図っていくかを、専門家の視点から詳しく解説いたします。
イアン・マクロード社の2024年度業績の概要
大幅な利益減少と売上減
エディンバラを本拠とするイアン・マクロード・ディスティラーズは、2024年9月30日までの1年間で、税引前利益が1,560万ポンド(約27.7億円)と、前年の3,380万ポンド(約60億円)から実に半減しました。
売上高も、1億6,050万ポンド(約285億円)から1億2,820万ポンド(約227億円)へと大きく減少。この落ち込みは、過去数十年で最大の経済的逆風と評価されています。
会計年度 | 税引前利益 | 売上高 |
---|---|---|
2023年 | £3,380万(約60億円) | £16,050万(約285億円) |
2024年 | £1,560万(約27.7億円) | £12,820万(約227億円) |
なぜ売上が減少したのか?
原因1:アジア市場での需要後退
報告書によれば、最大の要因はアジア地域での需要減退です。特にボトル入り商品の受注が減少し、これが直撃しました。パッケージ商品が売れなければ、収益の柱であるシングルモルトの展開が制限されます。
原因2:バルク販売の鈍化
英国国内でも、シングルケース販売の需要が下がり、ブローカー経由での販売も減少しています。これに伴い、流通できる樽の数が減少し、バルク販売も横ばい、もしくは減少傾向となりました。
原因3:世界的なスコッチブームの終息
同社によると、2022〜2023年は世界的なシングルモルト需要のピークだったとのこと。これに比べると現在は調整局面にあり、成長速度が鈍化しています。
ブランドとしてのグレンゴインの展望
一時的な調整期と位置付け
グレンゴイン蒸留所は、「現在の不況は一時的な調整である」と強調しています。新型コロナ以降で初めて大きく後退したものの、取引条件の変化に柔軟に対応しており、今後の市場回復に対して自信を見せています。
強固な資産とブランド戦略
グループ全体としては、ローズバンクやタムデュー、スモークヘッドなどのブランドも保有しており、多様なポートフォリオを持つことがリスク分散につながっています。さらに、ジン市場でもエディンバラ・ジンを中心に優位な立場を維持。
加えて、ブランド投資や運用資産、在庫への積極的な投資が今後の回復基盤を支えるとされています。
グレンゴインウイスキーの基本情報
ブランド名 | グレンゴイン(Glengoyne) |
所有企業 | イアン・マクロード・ディスティラーズ |
蒸留所所在地 | スコットランド・ハイランド地域(ローランドに近接) |
特徴 | ノンピート、シェリー樽熟成、フルーティな香味 |
主な製品 | 10年、12年、18年、21年、カスクストレングス等 |
生産方式 | グラビティ式、ゆっくりとした蒸留プロセス |
まとめ
イアン・マクロード・ディスティラーズが直面した2024年度の業績悪化は、グレンゴインを含むスコッチウイスキー市場の調整期の象徴ともいえる事象です。しかしながら、同社は多様なブランド展開と積極的な資産投資によって、長期的には成長を維持する戦略を示しています。
記事の要点まとめ
- イアン・マクロード社の2024年度利益が半減し、売上も大幅減少
- アジア市場の需要減退と英国でのシングルケース販売の鈍化が主因
- 2022〜2023年の世界的スコッチブームの反動を受けて調整期に突入
- グレンゴイン蒸留所は今後の市場安定と回復に自信を表明
- ブランド戦略と資産投資によって中長期的な成長を模索
今後のグレンゴインの展開に注目しながら、消費者としても市場の動向を見極めていく必要があります。
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