ジャック・ダニエルの製造元ブラウン・フォーマンは、世界的な貿易摩擦と消費者支出の減少を背景に2025年度の売上が減少し、今後も厳しい経営環境が続くとの見通しを示しました。
本記事では「なぜ売上が減ったのか」「どのような課題があるのか」「今後の戦略はどうか」を専門家の視点で解説します。ウイスキー業界にとってのリスクを整理し、メーカーや飲食店経営者がどう対応すべきか提案します。
米国発の関税摩擦が酒類業界を直撃
2025年現在、米国の対外関税政策は予測不可能で、特にドナルド・トランプ前大統領が再び強硬姿勢を示す中、蒸留酒業界は深刻な影響を受けています。
鉄鋼やアルミニウム関税の大幅引き上げは物流コストを押し上げ、パッケージ資材価格の高騰を招きます。さらに貿易相手国による報復関税は、米国産スピリッツの輸出競争力を著しく低下させます。
ブラウン・フォーマン幹部はカナダ市場での販売機会喪失を例示し、関税を巡る不透明感が経営計画を難しくしていると説明しました。
売上・利益ともに減少
売上と利益の状況
- 通期純売上高:約40億ドル(約6,300億円)
- 前年比売上:5%減
- 第4四半期売上:7%減
- 通期純利益:15%減(約6億ドル→約5億1,000万ドル / 約950億円→約810億円)
- 第4四半期純利益:45%減
ブラウン・フォーマンは2025年度を「過去30年間で最も不確実な年」と位置づけています。消費者の購買行動が変化し、小容量ボトルの需要が増えるなど、単価の下落圧力も強まっています。
小容量ボトルへのシフト
ローソン・ホワイティングCEOは「20ドル札(約3,150円)ではなく10ドル札(約1,575円)で買える小さいサイズを求める消費者が増えた」と説明しました。
消費者は旅行や宿泊など他分野での支出を優先する傾向が強まり、食品スーパーなどでのアルコール購入量が落ちています。これは低所得層への影響が特に顕著です。
主なリスク要因
- 関税の先行き不透明感
- 物流・原材料コスト上昇
- 消費者支出の抑制
- 為替変動による収益圧迫
- 競合他社との価格競争激化
リアン・カニンガムCFOは「非常に不安定な状況。関税の行方は誰にも予測できない」と述べ、来期も厳しい経営を予想しています。
製品別の動向と新製品戦略
ブラウン・フォーマンのウイスキー製品全体の売上は横ばいでしたが、ブランド別では以下のような動きがあります。
ブランド | 概要 |
---|---|
ジャック・ダニエル テネシー・ウイスキー | 売上増。基幹ブランドとして引き続き堅調 |
ジャック・ダニエル超高級品 | 売上減。為替や高価格帯需要の鈍化が影響 |
ウッドフォード・リザーブ | 売上増。プレミアムバーボン市場の支持継続 |
新製品 ジャック・ダニエル テネシー・ブラックベリー | 2025年夏発売予定。世界的なフレーバートレンドを取り込み新規需要を開拓 |
ホワイティングCEOは「ブラックベリーはグローバルで認知されたフレーバーで、ジャック・ダニエルの味わいと自然にマッチする」と強調しました。
コスト削減策と組織再編
- 全世界で従業員を約12%削減
- ルイビルの樽製造工場閉鎖
- 年間約7,000万ドル(約110億円)から8,000万ドル(約125億円)のコスト削減を見込む
こうした施策で収益性を維持しつつ、変動の大きい市場に備えています。
飲食店・流通業者への視点
- 仕入計画を柔軟化:関税変動による価格上昇リスクを想定し、在庫の回転率を最適化する。
- 小容量ボトルを活用:消費者の節約志向に対応したメニュー構成やセット提案を検討する。
- 新フレーバー戦略への対応:ジャック・ダニエル ブラックベリーなど新製品を活用し差別化を図る。
- 情報収集を強化:為替や貿易政策の動向を注視し、販売計画に反映する。
まとめ
ブラウン・フォーマンは関税摩擦と消費者の支出抑制を背景に、売上と利益が減少し、2025年度も厳しい経営環境が予想されています。とはいえ、基幹ブランドの底堅さや新製品投入、コスト削減策などで打開策を模索しています。
記事のポイント(箇条書き)
- 世界的な貿易摩擦で米国産スピリッツが関税の打撃を受ける
- 消費者の節約志向が強まり、小容量ボトル需要が増加
- ブラウン・フォーマンの2025年度売上は5%減(約6,300億円)、利益は15%減(約810億円)
- 基幹ブランドは堅調だが超高級品は売上減
- 新製品「ジャック・ダニエル テネシー・ブラックベリー」を投入予定
- 従業員12%削減などコスト構造を改善
- 飲食店・流通業者も柔軟な仕入れ戦略と新製品活用が鍵
コメント