スコッチ業界、イングリッシュ・シングルモルトの提案に強く反発

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英国政府が「イングリッシュ・シングルモルト・ウイスキー」の法的定義を検討していることに対し、スコットランドのウイスキー業界や政治家が強く反発しています。

スコッチ・ウイスキー協会(SWA)は、この提案がシングルモルト・ウイスキーの価値を下げ、スコッチ・ウイスキーの評判を損なう可能性があると警鐘を鳴らしています。

本記事では、この提案の詳細、スコットランド側の反応、そして今後の展開について解説します。

目次

イングリッシュ・シングルモルト・ウイスキーとは?

現在、「シングルモルト・ウイスキー」と名乗るためには、単一の蒸溜所で製造されるという厳格な条件があります。

ところが、英国政府が検討している新たな定義では、イングランドの異なる場所で製造されたウイスキーも「シングルモルト」と名乗ることが可能になるかもしれません。

この提案を整理したものが以下の通りです。

イングランド・シングルモルト・ウイスキーの提案内容
  • イングリッシュ・シングルモルト・ウイスキーは、イングランド国内の単一の蒸溜所で蒸留される必要がある。
  • マッシング(糖化)や発酵は別の場所で行うことが許可される。
  • 使用する大麦麦芽は、イギリス国内産であることが求められる
  • 蒸溜所は、地元の醸造所と提携し、原材料の調達や発酵を外部で行うことが可能

この提案は、イングランドのウイスキー業界が製造コストを抑えつつ、「シングルモルト」のブランド価値を活用できることを意味しています。

この提案のポイントは、シングルモルトの製造にあたって蒸留所で蒸留される必要があるが糖化や発酵は別の場所で行えることです。

スコッチ業界の反発—「シングルモルトの価値が下がる」

スコットランドのウイスキー業界、特にスコッチ・ウイスキー協会(SWA)は、この提案に対し強い懸念を表明しています。

SWAの戦略・広報部長であるグレアム・リトルジョン氏は、BBCのインタビューで次のように語りました。

「スコッチ・ウイスキーは、大麦麦芽を使い、マッシング、発酵、蒸溜をすべて単一の場所で行うことで成り立っています。しかし、英国政府の提案では、そのうちの最初の2つの工程(マッシングと発酵)が別の場所で行われることが許可されます。これは、シングルモルト・スコッチ・ウイスキーが持つ地域との深い結びつきを損なうものです。」

また、SWAは、今回の提案が「シングルモルト」というカテゴリー全体の品位を損なうと警告しています。

「この提案が実現すれば、シングルモルト・ウイスキーの品質基準が下がり、スコッチ・ウイスキー業界全体の評判を著しく損なうでしょう。」


スコットランド政府も反対を表明

スコットランド政府もこの提案に強く反発しており、スコッチ・ウイスキーのアイデンティティを守るために行動する姿勢を示しています。

スコットランドの農村問題担当閣僚であるマイリ・グージョン氏は、次のように述べています。

「『シングルモルト』という言葉の定義を変えることは、スコットランドの象徴的なウイスキー産業に壊滅的な影響を与える可能性があり、まったく容認できません。」

また、スコットランドのジョン・スウィニー首相も、政府としてスコッチ・ウイスキーの伝統と品質を守るために、あらゆる手段を講じると表明しました。

イングリッシュ・ウイスキー側の主張—「革新のために必要」

一方で、イングリッシュ・ウイスキー・ギルド(イングランドのウイスキー生産者団体)は、この提案を支持しています。

彼らの主張は以下の通りです。

  • 地元の醸造所と提携することで、革新的で個性的なウイスキーを生み出せる。
  • 使用する穀物はすべて英国産であり、ウイスキーの地域的なアイデンティティは守られる。
  • ウイスキー業界に新たな選択肢を提供し、より多様な製品が生まれる可能性がある。

また、イングリッシュ・ウイスキー・ギルドは、「シングルモルト」の名称を使用できることが、イギリス産ウイスキーの国際的な地位を向上させると考えています。

今後の展開—3ヶ月以内に結論

現在、この提案は英国政府の環境・食料・農村地域省(Defra)で審議中です。

スコットランド側の反対意見を受け、Defraの広報担当者は次のようにコメントしました。

「まだ最終決定は下されておらず、現在申請手続きが進行中です。」

しかし、この提案に対する反対意見の提出期限は3ヶ月以内とされており、それまでにスコットランド側の意見がどれだけ影響を及ぼすかが注目されています。

SWAは、「シングルモルト」の基準を守るために、正式に反対意見を提出する予定です。

まとめ—シングルモルトの未来を巡る攻防

項目内容
提案の内容イングリッシュ・シングルモルト・ウイスキーの法的定義を変更し、異なる場所での製造を許可
スコッチ側の懸念品質基準が下がり、「シングルモルト」という名称の価値が損なわれる
イングリッシュ側の主張革新的なウイスキーを生み出し、イギリス産ウイスキーの地位向上につながる
スコットランド政府の対応スコッチ・ウイスキーのアイデンティティを守るため、あらゆる手段を講じると表明
今後の展開3ヶ月以内に反対意見が提出され、最終決定が下される

シングルモルト・スコッチ・ウイスキーは、長年にわたり確立された伝統と品質基準を持つカテゴリーです。一方で、イングランドのウイスキー業界は新たな成長を目指し、独自のアイデンティティを築こうとしています。

この提案がどのような結論を迎えるのか、今後の展開に注目が集まります。

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この記事を書いた人

Yasui Youheiのアバター Yasui Youhei ウイスキープロフェッショナルの資格を持つシェフ

私は、ウイスキープロフェッショナルの資格を持つシェフです。ウイスキーの魅力を一人でも多くの人に広めたいと思い、ブログを開設しました。|TWSC審査員|ウイスキー文化研究所認定ウイスキーコニサー|調理師|1児のパパ

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