現在、欧州のクラフトウイスキー業界に波紋が広がっていることをご存知でしょうか。
2004年に欧州連合(EU)とカナダの間で締結された貿易協定により、「ライ・ウイスキー(Rye Whisky)」という名称が、事実上カナダと米国産に限定されることが正式に確認され、欧州各国の生産者が反発しています。
20年越しの貿易協定が突如施行へ
この協定は2004年に署名されたものの、長らく施行は見送られてきました。
しかし2024年に入り、ポーランド、ドイツ、チェコの農業当局が欧州委員会に説明を求めたことを契機に、農業農村開発総局が「ライ・ウイスキー」は協定により保護された用語であると公式回答。
これを受けて、フィンランドとデンマークは2024年1月からこの規則の施行を開始しました。
スカンジナビアの蒸溜所に大きな影響
フィンランドのキュロ蒸溜所では、新たなラベル表記として「ライ麦から造られたウイスキー」に変更。
共同設立者ミッコ・コスキネン氏は、「“ウイスキー”と“ライ麦”という言葉を並べることすら認められない」と語ります。
デンマークのスタウニング・ウイスキー共同創業者、アレックス・ムンク氏も「新商品を現行パッケージで出せば、棚から撤去される可能性がある」とし、「“ライ麦と大麦で造られたウイスキー”と表記せざるを得ない」と現状を嘆いています。
不公平感の根底にあるカナディアン・ライ
欧州生産者の不満を増幅させているのが、カナディアン・ライ・ウイスキーに法的な原料定義がないという点です。
実際にはライ麦を使用していなくても「ライ・ウイスキー」と名乗れることが多く、原料のほとんどがトウモロコシというケースも少なくありません。
対して、ヨーロッパの蒸溜所では、麦芽ライ麦を100%使用するなど厳格な原料選定を行っており、「むしろ本物のライ・ウイスキーを造っているのは我々だ」との声も上がっています。
各国の対応と今後の展望
ライ麦ウイスキーの生産が盛んなドイツ、オランダ、フランス、オーストリアなどでは、法改正を求める動きも始まっています。
たとえば、オーストリアのJ・ハイダー社は1995年からライ麦ウイスキーを製造しており、「カナダとの協定より先に歴史がある」と訴えています。
一方、スコットランドのインチデアニー蒸溜所やイングランドのフィールデンなど、EUにウイスキーを輸出する英国の蒸溜所も例外ではありません。
スコッチ・ウイスキー協会は「“スコッチ・ライ”というカテゴリーは存在しないため、EUの規制には影響されない」としていますが、インチデアニー社はラベルに「ライ・ウイスキー」の表記を使用しており、今後の対応が注目されます。
まとめ
- 2004年のEU・カナダ貿易協定により「ライ・ウイスキー」は北米産に限定
- フィンランドやデンマークが2024年から規則を施行し、欧州生産者が名称変更を余儀なくされる
- 欧州のライ・ウイスキーは原料選定が厳格で、「本物」を名乗れない矛盾に不満が噴出
- カナディアン・ライには明確な原料規定がないため、使用実態との乖離が問題に
- 各国の生産者は名称使用の自由化や条約見直しを求め、欧州委員会に働きかけ中
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