ウイスキーの象徴的ブランド「ジョニーウォーカー」をはじめ、タンカレー・ジンやスミノフ・ウォッカなどを手掛ける世界的酒類メーカー、ディアジオ(Diageo)が、トランプ前大統領の関税政策により、年間最大で1億5000万ドル(約234億円)規模の利益減に直面する可能性があると明らかにしました。
この打撃に対応するため、同社は今後3年間で5億ドルのコスト削減を掲げており、人員削減の可能性も含まれています。本記事では、このニュースの背景と、ウイスキー業界への波及をわかりやすく解説します。
トランプ関税とは何か?
2025年現在、ドナルド・トランプ氏の政策により、米国は英国および欧州からの輸入品に対して10%の関税を課しています。これは、アルコール飲料を含む広範な製品が対象となっており、英国企業にとって大きな輸出障壁となっています。
ディアジオはこの影響を受ける主要企業の一つであり、米国市場は同社にとって最大の売上地域であるため、その影響は深刻です。
利益減と企業戦略の変化
ディアジオは、今回の関税により最大で年間1億5000万ドルの利益を失う可能性があると試算しています。実際、同社は2025年2月の時点で、関税の影響により会計年度末(6月)までの4ヶ月で営業利益が2億ドル減少する可能性を示唆していました。
こうした逆風に対し、同社は以下のような対応策を打ち出しています:
- 国際関税管理の経験を活かし、打撃の半分を緩和可能と見込む
- 価格引き上げによる利益維持(ただし実行には時間がかかる)
- 今後3年間で5億ドル規模のコスト削減プログラムを実施
このコスト削減計画は、同社が展開する180カ国以上の市場や、3万人を超える従業員に影響を及ぼすとみられ、雇用の喪失に直結する可能性もあると指摘されています。
市場の反応と今後の見通し
証券会社ハーグリーブス・ランズダウンのアナリストは、価格戦略や為替の影響などを考慮しても、全体的には業界が徐々に回復基調にあるとコメントしています。特に中国市場は関税の影響を受けにくく、ラテンアメリカやカリブ地域では成績が改善傾向にあるとのことです。
また、米国の卸業者が関税導入前に在庫を積み増していたこともあり、ディアジオの2025年度第3四半期の売上は前年同期比で5.9%増加。これは市場予測を上回る成果でした。
経営陣の対応と今後の焦点
ディアジオは2025年初め、トランプ政権による関税政策および米国内での売上鈍化を受けて、中期売上目標の撤回を発表しています。これは前CEOイヴァン・メネゼス氏が2021年に打ち出した目標であり、経営戦略の見直しを余儀なくされた形です。
現CEOのデブラ・クルー氏は、飲料業界にかかる圧力は「マクロ経済の不確実性」によるものだと述べ、景気回復の時期とスピードが不透明である点を強調しました。
加えて、新たにCFOに就任したニック・ジャンギアニ氏の下で、財務戦略の立て直しとコスト構造の見直しが進められると見られています。
まとめ
ディアジオは、トランプ関税の影響により、
- 年間最大1億5000万ドルの利益減を想定
- 米国市場の鈍化に対応して売上目標を撤回
- 5億ドル規模のコスト削減計画を進行中
- 雇用削減のリスクも浮上
- 関税緩和には時間がかかる見込み
- 中国など一部地域では成績回復の兆し
といった厳しい状況にあります。
世界的ウイスキーブランドを抱える企業として、関税政策や経済情勢の変動にどう対応していくかが、今後のウイスキー市場全体の方向性にも大きく影響することは間違いありません。
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